日本を代表する大企業2社がフィンテックの実証実験をシンガポールで開始

2016年8月22日、日立製作所(6501)と三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)傘下の三菱東京UFJ銀行は、小切手の電子化を対象としたブロックチェーン技術活用の実証実験をシンガポールで開始すると発表しました。

Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせたFinTech(以下、フィンテック)による新たな金融ITサービスの創出はベンチャー企業を中心に活発化しています。それに加え、このニュースは大企業もフィンテックへの取り組みを本格化させてきたことを示唆するものとして注目できます。

ちなみに、この実験でのコアとなる技術は、分散されたサーバー等にそれぞれ同一の記録を同期させて1つの台帳を維持する仕組みであるブロックチェーン技術です。実験では、この技術をもとに電子小切手の振り出し、譲渡、取り立てを行うシステムを両社で開発し、三菱東京UFJ銀行が電子小切手の発行・決済を、日立グループの複数拠点で受け取りや取り立てを行うとされています。

なぜ、シンガポールなのか

では、なぜ両社は日本ではなくシンガポールで実験を行うのでしょうか。この答えの1つは、シンガポールには「Regulatory Sandbox」と呼ばれる政策的な枠組みがあるためです。

シンガポールでは、2016年6月に通貨監督庁の主導でフィンテックの発展に向けた枠組み(Regulatory Sandbox)のガイドライン策定に関する市中協議文書が公表されています。この新たな枠組みを活用することで、仮に日本で行ったとしたら現行法の影響を直接的に受ける可能性がある実験を、安全かつ自由に行うことが可能になるのです。

また、シンガポールでは資金決済の多くが紙の小切手で行われ、決済に時間と労力がかかるため、電子化のニーズが大きいことも背景にあると考えられます。

いずれにせよ、日本にもシンガポールと同様の潜在的なニーズがあると見られており、フィンテックを用いた金融サービスを加速させるためにも、こうした規制緩和が早期に行われることが望まれます。

ブロックチェーン技術の磨きこみに注目

プレスリリースには、実用化時期に関してのコメントはありませんでしたが、各種報道によると、両者は今回の実験で改ざん防止などのセキュリティの問題などを洗い出し、2018年頃には実用化を目指しているようです。また、将来的にはこの実験での知見を活用し、金融以外の業界における決済やサプライチェーン・ファイナンスへの応用も視野に入れているとのことです。

ブロックチェーン技術を活用したフィンテックの普及拡大を目指すためには、技術面だけではなく、法制度、システムコストなど様々な観点からの検証が必要とされるため、この実験の行く末には今後も注視していきたいと思います。

なお、技術面においては、非営利団体であるThe Linux Foundationが北米で設立したブロックチェーン技術の共同開発プロジェクト「Hyperledgerプロジェクト」にボードメンバーとして参加している日立の取り組みについても注目したいと思います。

そこには、日立以外にもIBM、シスコシステムズ、インテルなど世界の主要IT企業が参画していますが、こうしたオープンな開発環境を活用することにより、ブロックチェーン技術の磨きこみが進むと見られます。今後、こうした北米での技術開発の取り組みと、シンガポールでの実用実験との相乗効果が期待されるところです。

 

和泉 美治