5.3兆円の損失は運用資産全体の3.81%

公的年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2016年7月29日、2015年度の運用実績(収益額)が、5兆3098億円の損失となったことを発表しました。年度ベースでは5年ぶりにマイナスとなりました。GPIFでは、内外株式の価格下落や外国為替市場の円高の影響を受けたと説明しています。

一部の報道では「1年で5.3兆円が泡と消えた」といったように将来を不安視する記事が見られました。確かに、5.3兆円は少ない額ではありませんが、GPIFの2015年度末現在の運用資産は134兆7475億円と世界最大級の機関投資家です。5.3兆円の損失は、収益率ではマイナス3.81%程度の割合です。

また、年金給付の財源は、その年の保険料収入と国庫負担で9割程度がまかなわれており、GPIFが運用する積立金から得られる財源は1割程度です。

5.3兆円は日常的に考えると巨額ではありますが、年金給付に大きな影響を与えるほどではありません。リスク商品に投資をすれば、年度によってはこれぐらいの損失が出ることは珍しいことではないとも言えます。

さらに注目すべきは、これまでの運用成績です。2001年の市場運用開始(後ほど説明します)以降、収益額は45兆4239億円のプラスです。年率に換算するとプラス2.70%であり、かなり健闘していると言えるのではないでしょうか。

2014年10月から株式などリスク運用の比率を高める

GPIF(ジー・ピー・アイ・エフとそのまま読みます)は、Government Pension Investment Fundの略です。GPIFは、厚生労働大臣の預託により、年金の保険料のうち、年金給付に回されずに余った積立金を国内外の債券市場や株式市場で運用します。

GPIFの前身は年金資金運用基金で、その前は年金福祉事業団でした。1961年に年金福祉事業団が誕生してしてからしばらく、資金の運用は行っていませんでした。86年から運用を開始しましたが、投資先は財政投融資がほとんどでした。

2001年に年金資金運用基金が設立され、厚生労働大臣から寄託された年金資金の運用(市場運用)を開始しました。そして、2006年に年金積立金の管理・運用業務を担う機関としてGPIFが設立されました。

2013年には、GPIFの基本ポートフォリオは、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%となっていましたが、その後リスク運用の比率が高まり、2014年10月からは国内株式25%、海外株式25%、外国債券15%、国内債券35%となっています。

「株式投資の割合を拡大したことが損失につながった」という報道もあります。確かにその通りですが、リスク運用とはそもそもそういうものです。仮に株式相場が上昇したとすると、株式への投資割合を下げることは機会損失につながります。

海外の大手公的年金基金では株式への割合が50%を超えるところも珍しくなく、60%以上を株式での運用に充てているところもあります。

GPIFのホームページで保有全銘柄を公開

むろん、公的年金の積立金を運用するわけですから、透明性の確保が大切です。

GPIFは7月29日、2014年度末時点の株式や債券の全保有銘柄を初めて公表しました。11月には昨年度末時点の情報を開示する予定で、来年以降は毎年7月に前年度末分を明らかにする方針です。

ちなみに、14年度末時点で保有する国内株(2,037銘柄を保有)の銘柄別ランキング(時価総額ベース)を見ると、1位:トヨタ自動車、2位:三菱UFJフィナンシャル・グループ、3位:三井住友フィナンシャルグループ、4位:ホンダ、5位:ソフトバンクグループなどとなっています。

外国株(2,665銘柄を保有)は、1位:アップル、2位:エクソンモービル、3位:マイクロソフトでした。国内外ともに上位には大企業が並んでいます。

と言っても、これだけの数の銘柄を保有しているわけですから、日経平均やダウ工業株30種平均株、S&P500などに採用されている企業ばかりとは限りません。

GPIFのホームページには国内債券、国内株式、外国債券、外国株式の保有全銘柄が公表されています(運用状況、平成27年度)。中には「こんな銘柄も?」という新しい発見があるかもしれません。興味のある方はチェックしてみてください。

 

下原 一晃