先進国においては過去15年間、低成長が続いています。今日のヨーロッパや日本の状況を見ても、高度経済成長期のような活気が戻ることは考えにくいかもしれません。

ミレニアル世代と呼ばれる若い世代が消費や所有に昔ほど関心を示さなくなってきており、総需要が減っていることも相まって、先進国における長期、分散投資でリターンを狙うことは厳しくなってきているようにも思われます。

そこで自然と注目されるのが、途上国や新興国への投融資です。途上国・新興国の金融市場においては高い金利水準が保たれており、資金需要が旺盛であることを示しています。需要があることは経済成長の大きな要因です。とりわけ、マイクロファイナンス市場は高い利子水準を保っています。

マイクロファイナンス≠マイクロクレジット

さて、マイクロファイナンスと聞くと、「小額の貸し付け」を思い浮かべる方も多いかもしれません。2006年にバングラデシュのグラミン銀行創設者であるムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞した時の受賞理由は、貧困層に対してこの「小額貸し付け」を行い、彼等の小規模ビジネスをサポートするとともに高い返済率を保ち、持続可能な貧困削減の道筋を示したからでした。

しかし、厳密に言うと「小額貸し付け」の直訳はマイクロクレジット、であり、マイクロファイナンスという言葉はもう少し大きな概念です。マイクロファイナンスは貸し付け以外の金融サービス、例えば預金や送金、リース、そして保険サービスも含みます。

忘れられがちな他のマイクロファイナンスサービス

マイクロクレジットはその注目度の高さから、世界の様々な場所で実践されています。ユヌス氏のグラミン銀行が成功を収めてから世界中にマイクロファイナンス機関が乱立し、マイクロクレジットサービスを提供し始めました(これらは「マイクロクレジット機関」と呼ぶのが正しいかもしれません)。それゆえ、複数のマイクロファイナンス機関が顧客を取り合うような市場も途上国・新興国においては珍しくありません。

しかし、貧困層が必要としているのは、貸し付けサービス(=マイクロクレジット)だけではありません。私たちが貸し付け以外の金融サービス(例えば預金や保険)を必要とするように、貧困層も他の金融サービスを必要としているのです。

貧困層の暮らしの特徴は「ハイリスク」

さて、では貧困層は貸し付け以外にどのような金融サービスを必要としているのでしょうか。貧困層の暮らしが私たち先進国に住む人々の暮らしと最も大きく異なる点は、「リスクが高い」ということでしょう。

我々は、病気になれば医療費は医療保険がカバーしてくれますし、一家の稼ぎ頭が不慮の事故で亡くなれば生命保険で当面の生活費は工面できるかもしれません。また、ビジネスマンであれば、仕事でミスをして損害を発生させてしまったとしても全ての責任を自分で負うわけではありません。

しかし、たとえば途上国の農村部に住む農民は、これらのリスクを全て自分で負っています。子供が病気になれば医療費は全て自分が払い、自分の農業が失敗すれば稼ぎはゼロになります。

では、リスクをヘッジしてくれる商品は?というと保険です。

高い農業マイクロ保険へのニーズ

世界の貧困層の75%は農村地帯に住んでいると言われています。そこに住む人々の多くが農民ですが、近年の気候変動の影響も相まって、彼等のリスクは年々増大しています。マイクロ保険、特に農業マイクロ保険はこの問題に対処できる可能性のある重要な商品となるでしょう。

当然、マイクロ保険を普及させる上で乗り越えなければならない壁はたくさんあります。たとえば、教育水準が低い傾向にある農村部の農民に保険契約の内容を理解してもらい、お互い納得いく契約にすること自体、一つの大きなチャレンジです。

実際に途上国で農民が保険金を請求した際に、被害の査定方法、基準等に関して農民と保険会社の間でトラブルが起きることもあります。また、将来のリスクに備えるという保険の概念を分かってもらうのにも努力が必要でしょう。

それでも、農民の間に農業マイクロ保険の重要性は徐々に浸透していっています。途上国農村部で農民にインタビューすると、適切な農業保険があれば加入したいという答えが返ってくることもしばしばです。

この事実に気づき始めた民間企業は、近年農業マイクロ保険分野に進出してきています。今、農業マイクロ保険の実現可能性の調査が世界各地で行われています。途上国・新興国への投融資、特に長期投資を考える際は、まだ手つかずの巨大市場である農業マイクロ保険市場は要注目です。

参考文献
世界銀行「World Development Report 2008」、Portfolios of the Poor、The MicroInsurance Center「Agricultural Microinsurance. Global Practices and Prospects」、Lawrence H. Summers (2014)「US Economic Prospects: Secular Stagnation, Histeresis, and the Zero Lower Bound

 

クラウドクレジット