来年1月に実施される台湾の総統選に向けて、選挙戦が本格化してきました。

台湾の現与党・民主進歩党(民進党)は先月、党大会を開催し、現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が再選を目指して出馬することを宣言しました。「今回の総統選は対岸(中国)との戦いでもある」と力強く演説して、対中強硬姿勢を前面に打ち出し、支持を取り込む姿勢を明確にしています。今回の党大会は、さながら総統選挙戦に向けた決起集会のようでした。

台湾総統選は紆余曲折を経て蔡氏と韓氏の一騎打ちに

一方の野党・国民党の公認候補、韓国瑜(ハン・グォユィ)高雄市長は10月15日に、市政府に市長としての休業届を提出して、16日から約3カ月間、総統候補として選挙活動に専念することを明らかにしました。国民党内では9月まで、鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏が出馬を検討しているといわれてきました。

郭氏は、国民党の予備選で韓氏に敗れて以降も、予備選の経緯から党幹部らに対する不満を強めていたようで、無所属での出馬を表明する直前まで準備を進めたようです。そうなれば、総統選では異例の三つどもえの争いになりましたが、世論調査で蔡英文総統のリードが大きくなったこともあり、最後は郭氏が矛を収めた形で国民党は分裂選挙を回避しました。

これにより、独立志向を持つ民進党の蔡氏と、対中融和路線を掲げる国民党の韓氏の2候補による一騎打ちとなりました。

国民党、民進党それぞれに対する懸念

国民党は、1990年頃から「一中各表」を掲げて、中台間の貿易を増大させてきました。これにより経済的には台湾が発展を遂げてきたことは確かです。しかし、台湾人の多数は、いつの間にか台湾が中華人民共和国に取り込まれてしまうことを恐れています。

なぜなら、中国共産党にとっては台湾を統一することが悲願であり、台湾には香港と同様に「一国二制度」を土台に統一しようと呼びかけているからです。経済的な結びつきが深まれば、台湾は自然と中国に取り込まれてしまう、と恐れることも無理もありません。最近の世論調査では、一国二制度の受け入れを拒絶する意見が多数を占めています。

国民党が政権を奪還した場合は、台湾の中国化をいつの間にか進めるのではないかという懸念は、根強くあります。一方、民進党は、理想主義的な傾向があり、政権運営では経験が浅く政策面では成果が見えにくいという評価があります。

実際、現職の蔡英文総統も、信念や人柄に優れているとの評価は高いのですが、産業振興や外交では目立った成果を上げていません。なにより、中国の脅威からどう台湾を守るのかについては、台湾人に答えを示せないできました。

米中通商摩擦や香港反政府運動の影響は?

これに加えて、今回は米中通商摩擦の対立が激しくなってきていることも影響します。対中国という図式で、米国と台湾は急接近しています。中国は、台湾と国交のあった国々に働きかけを強め、台湾とは国交を断絶し、中国と国交を結ばせて台湾の孤立化を進めてきました。これには、民進党政権のみならず、国民にも反発があります。

また、香港での反政府運動が長期化して中国の影がちらつくことも、台湾世論の対中国懸念を深める結果となっています。少なくとも、一国二制度がうまく機能していないのではないかとの懸念は、台湾人の判断をより慎重にするでしょう。

今回の総統選で、台湾の立ち位置をどうするのかは最も重要な争点になるでしょう。どのように中国からの圧力をやり過ごし、そのリスクをマネージしながら台湾の経済発展や産業振興を進めていくのか、台湾の有権者は総統候補の政策に注目しています。

90年代以降、民進党と国民党は総統選のたびに僅差で勝敗を決してきました。国民党は、2015年の総統選では民進党に敗北を喫しましたが、2018年の統一地方選挙では大勝しています。

世論調査では蔡総統が一歩リードしていますが、米中摩擦や香港問題が顕在化していなかった今年初めには、蔡総統は候補者にもなれないといわれるほど、支持が低かったことも事実です。経済政策などが争点となれば、総統選のムードが一変する可能性はあるでしょう。台湾の総統選にもぜひ、注目しておいてください。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一