本記事の3つのポイント

  • 東京オリンピック・パラリンピックの開催を前に、交通手段の1つとして注目されているタクシー。しかし、人手不足や車両の低稼働が問題となっている
  • 問題解消に向けて、自動運転技術の導入が注目されている。導入に向けてはコストの壁や規制緩和が必要となりそう
  • 日の丸交通はZMPと組んで自動運転タクシーによる公道実証実験をスタート。今後の本格的なサービス導入が期待される

 

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が、いよいよ約1年後に迫ってきた。現在も多くのインバウンドで都内や地方の観光地は大いににぎわっているが、来年はよりバラエティーに富んだ訪日客で、特に都内各所は活況を呈するものと期待される。

 一方で、移動手段に目を向けると、訪日客の多くは公共交通機関である鉄道やバスを利用するケースが多いだろう。実際、鉄道(JR+民鉄)による全国の総輸送人員は、1日あたり8110万人、年間では約296億人に上る。しかし、電車やバスは、あくまでもパブリックな乗り物であり、地方に行くほど乗降場所や時間に大きく制約を受けてしまう。また、特に首都圏における鉄道網はJR、地下鉄、私鉄が網の目のように走っており迷路の様相を呈している。

 そこで、24時間ドア・ツー・ドアで利用できる交通手段として期待されるのが、タクシーだ。東京都区部におけるハイヤー・タクシーによる1日あたりの総輸送人員は87万人で、年間では延べ3億1900万人が利用している計算になる。

タクシー業界が抱える課題

 現在、タクシー業界が直面する課題・チャレンジとして、①ライドシェア(白タク)の解禁、②自動運転、③深刻化する人手不足、④乗務員の高齢化による安全リスク、などが挙げられる。

 東京ハイヤー・タクシー協会によると、タクシードライバーの平均年収(2017年度ベース)は419万円で、全産業男性労働者の685万円と比較すると250万円ほど低い。このため、若年入職者が減少しており、就業者の高齢化が進行。タクシー事業者の中には、保有車両数に対して十分な乗務員を確保できず、稼働率の低下を余儀なくされている事業者も出てきている。

 実際、都内の法人タクシー(約3万台の車両)の稼働率は10年には85.2%であったが、17年には76.1%にまで低下。つまり、4台に1台は車庫に眠っている状況となっている。また、タクシー乗務員の年齢分布を見ると、49.9%が60歳以上であり、高齢化が急速に進んでいることがわかる。

 この不足分をライドシェアで補うという議論がされているが、日本では自家用車を用いたライドシェアは「白タク行為」として禁止されている。民間業者などから規制緩和を求める動きがあるが、タクシー業界では、「競争激化によりタクシーの品質悪化を招く」「白タクドライバーによる犯罪が多発する可能性がる」などの理由から、基本的には容認しないとの姿勢を崩していない。

 そこで、タクシー業界が白羽の矢を立てるのが自動運転技術だ。「例えば、米国や中国においては、自動化とシェアリングをより高めていくことで、自動運転車 配車プラットフォームの構築によるビジネスが間もなく本格的に立ち上がろうとしている。一方、日本においては、自動化は同じだが、シェアリングではなく、相乗りタクシーや子育てタクシー、観光タクシーなどサービスの多様化が求められている。自動化とサービスの多様化を追求していくことで、有人無人タクシーに最適化したプラットフォームの構築を進めていく」と日の丸交通の富田社長は語る。

 現在の一般的なタクシーの収益構造を見ると、73%は乗務員の人件費、残りの27%は車両コスト・人件費(遠隔監視など)および一般管理費が占め、収益はほぼゼロ。これが自動運転タクシーになると、乗務員の人件費が不要となるため、車両コスト・人件費(遠隔監視など)および一般管理費が86%を占め、14%の営業利益を見込めるとの試算(東京ハイヤー・タクシー協会)がなされており、タクシー事業者にとって大きな収益の改善が期待できる。

 加えて、早朝や夜間など、タクシー運転手にとって負荷の大きい時間帯に自動運転タクシーを導入することができれば、安全性の向上にも寄与する。また利用者にとっては、ニーズに見合った台数のタクシーが稼働することで、利用したい時にスピーディーにタクシーを捕まえることができるようになる利点もある。

 自動運転タクシーサービスを普及させていくためには、業界が取り組むべき課題もある。まず、初期段階では導入コスト(償却)および過渡期における人件費の負担が事業者に重くのしかかることになるため、自動運転運行向けの補助や支援方策を検討する必要がある。

 制度面では、帰庫義務の緩和や台数規制、運賃料金制度などの位置づけの明確化が不可欠であることから、業界内で自動運転の受け入れに対する議論をさらに深めていくことが必要だろう。さらに技術面では、予約・決済システムの確立や遠隔管理システムの精度向上、他の交通機関との連携検討・要件の拡大(MaaS)なども進めていくことが、サービスの質の向上につながる。

公道で自動運転タクシーの実証実験

 ㈱ZMPと日の丸交通㈱は、2018年8月27日~9月8日までの間、自動運転タクシーによる公道営業実証実験を行った。この実験では、ZMPが開発した自動運転車両「RoboCar MiniVan」(センサー・PCを取り付けた実験車両)を使って、タクシー事業者として日の丸交通が自動運転タクシーを走行。ルートは、大手町フィナンシャルシティグランキューブ(東京都千代田区)と六本木ヒルズ(東京都港区)を結ぶ約5kmの一般道で、都心部でのタクシードライバー不足の解消や、ICT技術を活用した配車サービスの検証を行った。

 この実証実験は、自動運転技術の実用化を一層加速するために東京都が18年度から開始した支援事業「自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するプロジェクト」に選定され、国と東京都が共同で設置する「東京自動走行ワンストップセンター」の支援を受けて実施されたものである。

 なお、両社は、20年の自動運転タクシーの実用化を目指して協業を進めている。熟練タクシードライバーの走行データや運転ノウハウを収集して、自動運転のアルゴリズムを改良。日の丸交通のドライバーは、自動運転車両の操作を座学とテストコースで習得、安全な走行を支援。また、ZMPは自動運転タクシー用の配車システムを開発。遠隔地で走行を監視するシステムを構築し、スムーズなタクシーサービスの運営をサポートする体制を整えた。

 19年7月、㈱ZMP、東京空港交通㈱、東京シティ・エアターミナル㈱、日本交通㈱、日の丸交通㈱、三菱地所㈱ならびに㈱JTBの7社は、「自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するするプロジェクト」(東京都事業)に基づき、MaaSを活用して空港リムジンバスと自動運転タクシーを連携させた都市交通インフラの実証実験を行うと発表した。

 今年は、先述の取り組みをさらに発展させ、成田空港・羽田空港と東京シティエアターミナルを結ぶ空港リムジンバスと自動運転タクシーを連携。空港から都心部である丸の内エリアへのよりスムーズな移動を目指す。自動運転タクシーの走行区間は、東京シティエアターミナルと丸の内パークビルディングを結ぶ約3kmを予定しており、日本交通と日の丸交通の2社がタクシーサービスを提供する。さらに、空港リムジンバスと自動運転タクシーを組み合わせたサービスの提供により、JTBはMaaSに適応した旅行サービスの商品化に関する検証も行う。

 なお、実施期間は11月中の2週間で、「自動運転および複数のインフラ連携を用いたこの実証計画により、街における先進的な都市交通インフラの導入の可能性を検証し、東京のさらなる機能向上を目指していく」と日の丸交通の富田社長は語った。

自動運転車両「RoboCar MiniVan」

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

まとめにかえて

 タクシー業界が世間一般に与えるイメージを考えれば、現在の変化は大きなギャップと言えるでしょう。古臭いと言われかねない旧来型のビジネスモデルから、最新のテクノロジーを取り入れて大きく生まれ変わろうとしています。きっかけとなっているのが、ウーバーなどの海外勢の動きです。グーグルなどのプラットフォーマーなどもタクシー業界に大きな関心を寄せており、日本のタクシー業界も危機感を強く持つようになってきています。日本のタクシー業界は世界的に見ても、サービスの質などは非常に高いと言われており、これら本来の特徴を生かしながら、激変する業界環境に最新テクノロジーを駆使して柔軟に対応していくことが求められそうです。

電子デバイス産業新聞