日本初、急拡大する傘の貸出サービス「アイカサ」~社会課題解決をサブスクリプションで

「アイカサ」という傘のシェアリングサービスをご存知ですか。

急に雨が降った時にサッと借りて、止んだら他の場所で返せる。そんな便利なサービスがあったらうれしいですよね。思いつく人はたくさんいるかもしれませんが、実際にそれで起業するとなると話は別です。

いったいどこで儲けるのか、返却傘がどこかに偏ってしまったらどうするのか……などなど、躊躇する要素ばかりです。なにしろ誰もやったことがない、つまりブルーオーシャンなので夢はあるかもしれませんが、果たして市場はあるのか? 利益は出せるのか?

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アプリを一つ作って試してダメならやめる、そういうブルーオーシャンならリスクもないでしょう。でもこれは違います。数か所に設置した程度では誰もそこに便利さを感じてくれません。つまり価値ゼロ。数千か所できた時にこそ価値が生まれるビジネスです。

そんなリスキーな事業に果敢にチャレンジするのは、「アイカサ」を運営する株式会社Nature Innovation Groupの丸川照司社長。その特徴は、1日24時間何回借りても税込70円、1カ月間何回借りても税込420円というサブスクリプション型サービスであることや、売上の1%は環境のために寄付するなどといったことです。

では、若干24歳で資金も乏しい丸川青年は果たしてどこから傘のシェアリングビジネスの事業化に着手したのか。インタビューを交えてご紹介します。

丸川照司社長(右)と筆者

傘のシェアリングサービスを思いついたきっかけ

丸川社長は、大学時代に「反抗期カウンセラー」という、反抗期の子供を持つお母さんの相談に応えるスタイルのビジネスを立ち上げた学生起業家でもあります。

反抗期が終わったばかりの現役学生である自分の経験から生まれた事業で、対応も自分でやるものですから世のお母さんの心を捉え人気が出るものの、自分自身がどんどん忙しくなる。それに、学生らしくリースナブルだったこともあり、割に合わないことに気づいて半年で止めることに。まさにフロービジネスの苦労を体験したということです。

その後、日本を離れてマレーシアの大学に編入し、そこでシェアサイクルが爆発的に普及していく光景を目にしました。シェアリングビジネスの急成長を目の当たりにして生まれたアイデアが、日本を舞台に展開する傘のシェアリングです。

早速、市場規模を調べ、日本では年間8,000万本のビニール傘が販売されていることを知りました。ワクワクする気持ちを抑えきれない、しかし、資金のない丸川社長は天を仰いで途方にくれました。

彼は一体どうしたのか。日本に帰り事業を開始するところから話を聞いてみました。

ビニ傘でスタートしてあえなく失敗したが…

大竹:資金がない中、どうやって事業をスタートさせたんでしょうか?

丸川:今だから笑い話ですが、ゴミとなりそうな傘を貰ってきて、自分たちできれいに洗って、マークを貼って貸し出していました。

大竹:ちょうどその頃ですね。私の経営する会議室アットビジネスセンターの渋谷店になにやら怪しい貸し傘が置かれているのを見て、これは何だ?と思ったのは。しかし、貸し傘があれば便利で自社の評判には良いかもしれないと思い放置したんです。偶然ですが、当社がテストマーケティングの場を提供していたわけですね(笑)。

丸川:はい。ただ、その頃あまり評判は良くありませんでした。まず、傘も安っぽいし、ウェブの貸出システムの見た目も怪しくて、クレジットカード情報を登録するのをためらわれてしまったんです。つまり、安っぽいビニール傘ではお金を払って借りようとする人も少ないし、これは必ず返さなくてはと思えないものだったのです。それに、壊れやすくメンテナンスが大変というデメリットもあって、ビニール傘は断念しました。

大竹:今のオリジナルの傘は、かなりしっかりした質感でビニール傘のように捨てるということは考えにくい品質です。それに、暗号ダイヤルがついていてアプリで登録すると簡単に開錠の番号が提示される、良くできたシステムだなぁと感心したんですよ。

丸川:最先端のITを活用していると思われがちなんですが、結構アナログです。安っぽいビニール傘の経験から、良い場所に置いてもらうには良い商品であることが必要だと思って開発しました。しかし、あれでも最初の頃は大手電鉄会社からは門前払いでした。

大竹:ビニール傘の時代から色々とテストマーケティングをされてきたのですね。

丸川:カッコよく言えばそうですが、とにかく色々なことを試してきました。

アイカサの仕組み

アイカサという事業の潜在力をストック思考で分析する

私がアイカサという事業の立ち上げがすごいと思うところは、この初期の失敗からの改善スピードです。その失敗からわずか1年足らずで今ではオリジナル傘(スマホとQRコードで開けるロック付き)を開発し、福岡では市営地下鉄での採用をきっかけに地域ぐるみで導入され、メディアの注目を集めています。

また、東京の上野でもJR東日本、京成電鉄、国立博物館、丸井、松坂屋などの約50か所でこの6月から展開を開始。ベンチャーキャピタル4社が出資し、大手コンビニとも提携が始まるなど、まだまだ飛躍が期待できそうです。

さて、ここでアイカサについてストック思考で分析してみたいと思います。

アイカサは、いつの間にか私自身の経営する貸し会議室に存在していました。そのゲリラ的営業をつい認めたくなるのはなぜか? そう考えて、アイカサが「社会課題解決」になるサービスだということ気づいたのです。

多くの人のお困りごとを解決する思いからスタートしたサービスの持つエネルギーは魅力的ですし、そこを意識的に活かして展開するしたたかさには期待が膨らみます。

スタートアップの場合は、他社が行っていないサービスを世に出す場合が多いですが、世に事例がない中で思いついたアイデアをストックビジネスにする時には欠かせないポイントがあります。

一つは【長期的視点】です。この場合は「ビニール傘の需要は減らず、無駄と思う問題意識はむしろ拡大していく」ということでしょう。そこに解決すべき社会課題があり、大きな市場があり、それは廃れることがないとわかるので、ストックビジネスに挑戦する価値があるわけです。

次はストックビジネスになるかどうかの判断の分かれ目である利益ですが、社長が判断しやすいように最小単位である設置場所1か所からの粗利を見ます。これを【収益ユニット】として将来性のシミュレーションが一瞬でできるようにします。

ここでいう収益ユニットは、30センチ四方サイズの置き傘ワンユニットを最少単位として【粗利】×【新規数】×【継続率】が確立できるかどうかとなりますが、まさに今現在色々な場所に置いて、そのつど課金の【継続率】と利用者の【リピート率】を確かめる試行錯誤を行っているということです。

おわりに

今回は、ストックビジネスアカデミーのオリジナルコンテンツ「実践企業インタビュー」の一部から、アイカサという夢のあるストックビジネスの立ち上げ経緯をお届けしました。皆さんも新規事業を立ち上げる際にはぜひ参考にしてください。

大竹 啓裕

参考記事

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大竹 啓裕
  • 大竹 啓裕
  • 株式会社ハッチ・ワーク 代表取締役会長兼CEO

福島県出身、株式会社ハッチ・ワーク 代表取締役会長兼CEO、株式会社ストック総研 取締役会長
20代はセコム株式会社にて理想的なストックビジネスの原点を経験、その後、30歳でラーメンFCチェーンの創業メンバーとして参画、ラーメンFCとしては全国一位となる約300店のストックビジネスモデル構築の原動力となる。
40代は(株)ハッチ・ワークにて貸会議室「アットビジネスセンター」や月極駐車場探し「アットパーキング」にて国内オンリーワンのサービスを次々開発して事業拡大する。これまでの新規事業立ち上げは20事業以上。
経営者塾ストックビジネスアカデミーではストックビジネス構築を指導。
近著に『ストックビジネスの教科書』(ポプラ社)、『ストックビジネスの教科書 プロフェッショナル』(ポプラ社)がある。

 

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