半導体製造の最先端プロセスに用いられるEUV(Extreme Ultra Violet、極端紫外線)リソグラフィーは2019年が「量産元年」となって、本格離陸を迎えようとしている。先陣を切った台湾TSMCに続き、韓国サムスン電子もこれを追う。ただ、現状は数レイヤーへの適用にとどめる「試運転」の要素が強く、適用レイヤーが一気に増える5nm世代でその価値を大きく問われることになりそうだ。これに伴い、露光装置はもとより、フォトマスク分野ではパターン付きマスクの検査技術やEUV専用ペリクルの実用化などが急ピッチで進んでおり、インフラ整備が着々と進んでいる。

EUVの量産適用が始まる

 TSMCがEUVリソを初めて導入する「N7+」プロセスは、すでに量産がスタートしており、同プロセスのチップを搭載した最終製品が7~9月期から市場に投入される見通し。サムスン電子も7nmでEUVを採用し、19年末から20年初頭にかけて量産を開始する予定だ。

 これら顧客にEUV露光装置を供給するASMLの足元の受注・出荷状況も好調だ。19年は通年ベースで計30台の出荷を見込んでいるほか、直近の4~6月期には10台の大量受注を獲得した。EUVはまず先端ロジックを当面のアプリケーションとするものの、将来的にはDRAMも有力候補と位置づけられており、関連する材料・装置業界からの期待も高まっている。

 リソグラフィープロセスにおいて、露光装置同様に欠かせないのがフォトマスクだ。EUVは従来の光リソと異なり、反射光学系を用いるため、マスクやブランクス、さらには検査装置に至るまで、これまでと全く異なるものが求められている。見方を変えれば、参入する材料・装置各社にとっては大きな付加価値向上のチャンスと捉えられており、事業拡大に意欲を見せる企業が多い。

HOYAはEUV向け売上高が2倍に

 日系メーカーが強いマスクブランクスがその好例だろう。有力メーカーの一角を担うHOYAは、4~6月のEUVマスクブランクスの売上高が前年同期比で2倍に拡大。マスクブランクス売上高に占めるEUVの構成比も29%まで達している。国内の長坂事業所(山梨県北杜市)に加えて、シンガポール工場でもEUVブランクスの新ライン建設を進めており、20年初頭の生産開始を予定している。

 さらに同市場にはAGCも新規参入を表明。20年までにEUVブランクスの生産能力を18年比で3倍に拡張するなど、積極的な動きを見せている。

大型受注の正体は「APMI」

 ブランクスに関しては、すでにEUV光を使ったアクティニック検査(ABI=Actinic Blanks Inspection)が確立されている。一方、パターン付きマスクは現状ではDUV光を使った検査技術が採用されていたが、EUVマスクにもペリクル(防塵カバー)を装着する方式が今後主流になるとみられ、ブランクス同様にアクティニック検査が必須となってきていた。

これまでは、露光装置のEUV光源の出力が不十分で光の減衰を招くペリクルに関する議論が十分にされず、現在TSMCなどでもペリクルレスによるマスクの運用が実際の生産現場で行われている。しかし、今後は5nm以降を見据えて生産性改善が大きな課題となってくることから、ペリクルの装着が必要との声が多く、光源出力のめども立ってきたことから、ASML主導のもと、ここ数年で流れが変わってきた。

 こうしたなかで、マスク/ブランクス検査装置大手のレーザーテックがABIに続き、8月にパターン付きマスクの検査をEUV光で行えるAPMI(Actinic Patterned Mask Inspection)装置について初めて言及した。同社は17年9月に半導体関連の新製品で約160億円の大型受注を獲得したと公表していたが、これまで詳細については公表してこなかった。今回、顧客から情報開示に関する許可が取れたことで、この大型受注がAPMIであることを初めて公表した。

 ペリクルは三井化学がASMLとの間でEUVペリクルの生産技術に関するライセンス契約を締結。今後生産設備を導入して、2021年以降に商業生産を開始する。当面はフルサイズのポリシリコン膜で対応することになりそうだが、透過性や耐熱性のさらなる向上のため、将来的にはカーボンナノチューブのように強度や耐熱性が優れた材料にシフトしていくことが想定されている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳