京都アニメーションを襲った凄惨な放火事件から1カ月。そのショックや悲しみの波紋はまだ続いています。中でも、事件直後から国内のみならず、海外からもお見舞いや支援の声が数多く届いているのはご存知の通りです。

このように、京都アニメーションというアニメ制作会社があまりに多くの支持と高い評価を集めていることに驚いている人も多いことでしょう。「アニメは小学校と同時に卒業しました」という向きには、世界各国から集まる支持と高評価の理由が今一つピンとこないという人もおられるかもしれません。

そこで、小学校は卒業したけれどアニメは卒業していないおじさんが、ちょっと知ったかぶったお話をしてみようと思います。「京アニがすごいって言われるのはどうして?」というお話です。

「手抜きなし」の高品質追求を貫く

京都アニメーションという会社は、その名の通り京都にあります。本社は宇治市。手塚治虫が創設したアニメ制作会社・虫プロダクションで「仕上げ」という工程に携わっていた女性が退職後に京都に移り住み、1981年に近所の主婦らとともに大手アニメ制作会社の仕上げを請け負ったのが京都アニメーションのはじまりだったそうです。

京都アニメーションの仕事は丁寧で質がいいことが業界ではつとに有名で、テレビアニメの重要な回はぜひ京アニに、と制作スケジュールを調整する会社もあったのだとか。その頃から現在まで、一切の手抜きなしの姿勢を京都アニメーションは貫いています。

その質の高さは視聴者の目を奪います。誰が見ても「巧い」「きれい」ということがわかる画面がつくられます。アニメについて、あるいは絵画について、イラストについて、知識がないという人でも、京都アニメーションの作品と他のアニメ作品を見比べてみれば、きっと違いがわかるでしょう。

もちろん、ただ「巧い」、ただ「きれい」というだけではありません。よく見るとそれら要素はすごさの「基礎」の部分であって、実際のすごさはその上に積み重ねられた時間と手間と技術の結果なのです。

京都アニメーションの代表作として挙げられるのは『涼宮ハルヒの憂鬱』、『けいおん!』、『響け!ユーフォニアム』など。いずれの作品もみずみずしい少女たちの感情の起伏を豊かな色彩で描き出しています。また、本年2019年9月には劇場用作品『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形-』が公開される予定です。

アニメ業界の常識を変えた経営方針

京都アニメーションが現れるまでのアニメ業界は、アニメーターが儲からない仕組みになっていました。アニメーターとはアニメーションに使用する絵を描く人のことですが、この人たちはずっと「1枚いくら」の仕事をしていました。どれほど質が高い仕事をしても、枚数をこなせなければお金にならないのです。

しかし、いくらがんばっても人が1日に描ける枚数は限られています。そのため、アニメーターというのはいつも貧乏でした。それを改革したのが京都アニメーションです。京都アニメーションはアニメーターを社員として雇い、月給を支払う制度を確立しました。

実に当たり前のことのようですが、アニメ業界ではそうではなかったのです。一定の給料を支払い、安定した生活を保証することで安定して仕事ができる環境を整える。そのことで仕事の質は上がっていきます。京都アニメーション作品がいずれも好評を得ているのはその証左であると言えるでしょう。

また、京都アニメーションはアニメ制作の原画・動画・演出・背景・撮影という工程をすべて自社内で行うことを可能にしました。それによって、制作する作品の情報を全部門が共有し、徹底した品質管理ができるというわけです。

さらに、『AIR』や『CLANNAD』などのコンピュータゲームや、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『響け!ユーフォニアム』のような小説、『らき☆すた』や『けいおん!』などの漫画といった「原作」を持つ作品を多く作ってきた京都アニメーションは、原作までも自社で生み出すに至りました。

毎年「京都アニメーション大賞」を主催し、小説作品を募集。優秀作は自社レーベルの「KAエスマ文庫」として出版し、アニメ化されます。ここから生まれた作品も多く、『Free!』(原作タイトル『ハイ☆スピード!』)、『境界の彼方』、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という人気作も「京都アニメーション大賞」から出たものです。

このように、京都アニメーションはよい作品だけでなく、よい作品を生み出せる環境をも自らつくり出してきたのです。それは革新的と言っていい働きです。この不断の努力が京都アニメーションの「丁寧・高品質」に結びついています。

見る人を引きつける「京アニクオリティ」

ここまでは京都アニメーションという会社について見てきました。本項では京都アニメーションの作品そのものについてお話ししましょう。