半導体装置メーカー国内主要各社の2019年度(20年3月期)業績は、ファンドリー(半導体前工程の受託製造)の積極投資が下支えとなり、現時点で期初予想を維持するケースが目立つ。DRAMやNANDなどメモリー投資の回復が遅れており、通期予想の下方修正も危惧されたが、下ぶれリスクは従来想定していたものに比べて低減したといえそうだ。

TSMCの5nm投資が前倒し

 半導体設備投資を足元で支えているのが、ファンドリー世界最大手の台湾TSMCだ。同社は先ごろ発表した2019年4~6月期決算で、19年通年の設備投資計画が従来ガイダンス(100億~110億ドル)を上回ると言及。

 増額理由について、同社では過去3カ月の間、グローバルで5Gの開発が加速していることから、顧客の7/5nmプロセス需要が拡大しているという。具体的には、主要顧客の1社である米アップルが、20年のiPhone向けに5nm世代を採用することを決めたことが投資前倒し・増額理由となっている。アップルは19年秋発売予定の新型iPhone向けに最先端プロセスの「N7+」の採用を見送った経緯がある。N7+はEUVリソグラフィー技術を採用した初の量産プロセスであったが、コスト上昇が負担となり、採用に至らなかった。

 アップルが今回、5nm世代の採用に踏み切ったことで、TSMCが設備投資により一段とアクセルを踏む格好となった。

東京エレクトロンは通期計画を維持

 国内の半導体製造装置メーカー主要各社も、こうしたTSMCの投資拡大の恩恵を受けている。半導体製造装置国内最大手の東京エレクトロンは、2019年度第1四半期(4~6月)業績を発表、メモリー投資の縮小が進むなか、通期予想は期初計画を維持した。メモリー向け売上高は引き下げた一方、ロジック/ファンドリー売上高を大きく上方修正した。

 同社は19年(暦年)のWFE(Wafer Fab Equipment)市場の見通しについて、前年比15~20%減と予測しており、3カ月前の予想を維持した。ただ、アプリケーション別の見通しは変更しており、NVM(不揮発性メモリー)は従来の前年比50%減から60%減に、DRAMは同30%減から40%減に下方修正した。

 一方で、ロジック/ファンドリー投資は同25%増から35%増に引き上げた。7/5nm世代を中心とする最先端プロセス投資が活発化しており、19年市場におけるアプリケーションの構成比もロジックが過半を超える見通しだ。

下期売上のファンドリー/ロジック比率は6割に

 これに伴い、同社は通期計画を維持したものの、SPE(半導体製造装置)部門の新規装置売上高予想におけるアプリケーション別構成比を見直した。上期(4~9月)も若干の調整があるものの、下期計画に大きな変更が加えられた。

 具体的には、ファンドリー/ロジックその他の構成比が従来の48%から60%に変更された。これにより、下期のファンドリー/ロジックその他の新規装置売上高は従来の前年同期比で約2倍となる見込み。メモリー投資については「今現在がボトム」(河合利樹CEO)と強調、向こう3カ月で新たな投資計画が見えてくるとしており、従来どおり20年に向けて市場が回復してくるとの見方を示した。

 洗浄装置大手のSCREENホールディングスの19年4~6月期におけるSPE受注高は、前四半期比17%増の600億円と高水準。ファンドリー投資が牽引したほか、中国新興メモリーメーカーのDRAM投資も受注を押し上げた。7~9月期もファンドリー向けの受注が高水準で推移するとみて、4~6月期と同等規模の600億円超を見込む。

アドバンテスト、SoCテスター受注が過去最高

 半導体テスター大手のアドバンテストの業績も好調だ。同社が発表した2019年度第1四半期(4~6月)業績は、受注高が659億円(前四半期比横ばい/前年同期比7%減)となり、従来予想を大きく上回った。5G関連の需要拡大により、SoCテスターの四半期受注高が過去最高を記録した。

 受注高のうち、SoCテスターの受注高は436億円(同14%増/同4%増)。同社によれば、当初の想定を約150億円上回ったという。上ぶれ要因については、エンジニアリング段階での5Gデバイスに関連した需要に加え、スマートフォン関連の需要が貢献したという。

 受注が想定を上回ったことで、通期業績の上方修正にも注目が集まるが、吉田芳明社長は「(好調な第1四半期業績を)通期予想に反映するにはまだリスクが高い」とコメント。第2、第3四半期の受注動向を確認したうえで、計画の修正を行うかどうかを決めていくとした。

 通期予想に変更はないものの、事業別の売上高見通しは変更した。主力のテスター事業のうち、メモリーテスターは従来予想の400億円から300億円に引き下げる一方、SoCテスターは1130億円から1300億円に上方修正した。

TSMC1社でメモリー投資減少分をカバーするのは不可能

 ファンドリー投資が前倒しとなったことで、半導体装置メーカーのさらなる下ぶれリスクは回避できたかのように見える。しかし、「メモリーの減少分をすべてオフセットする規模感か?」と言われるとやや懐疑的な見方が残る。実際にサムスン電子の西安工場第2棟(X2)、ならびに東芝メモリの北上工場(K1)や四日市工場第6製造棟(Y6)のフェーズ2など先送りになったメモリー投資案件は多い。これら投資計画をTSMC1社の投資ですべてカバーするのは不可能だ。

 よって、国内主要各社の通期計画が今回軒並み維持されたことは、今後の業績進捗に向けて不安材料といえそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳