経済産業省が7月4日から実行に移した韓国向けの半導体・FPD材料の輸出管理厳格化によって、FPD(Flat Panel Display)業界では韓国のサムスンディスプレーやLGディスプレーが得意としている有機ELの生産に影響が出てくるのではと危惧されている。だが、FPD製造用途に限ると、生産にはほとんど影響しないとみられ、大きな混乱はなさそうだ。

フォルダブル用も対象外

 日本政府が輸出管理を厳格化した3品目「レジスト」「フッ化水素」「フッ化ポリイミド」に共通しているのが「高純度フッ素」であり、この輸出量と韓国での使用量を正しく管理するのが今回の措置の目的といわれている。フッ素の含有量に対して線引きがなされており、フッ化ポリイミドは10%、フッ化水素は30%が対象になる。

 FPD分野だけに限ると、ポリイミドは配向膜などに使用されているものの、いずれも10%以下であるため対象外。フッ化ポリイミドに関しては、一般的なポリイミドに比べて光透過率が高いのが特徴で、サムスンが再発売を予定しているフォルダブルスマートフォン「Galaxy Fold」向けのカバーフィルム用材料が対象になると報じられたが、これも実のところ対象外のようだ。しかも、サムスンは年内生産予定分のフッ化ポリイミドをすでに確保済みといわれており、当面は心配ないもようだ。

FPD用フッ化水素は代替策あり

 FPD製造向けのフッ化水素に関しては、韓国メーカーが低温ポリシリコン(LTPS)液晶ラインの洗浄に一部使用している。また、スマホのディスプレーモジュールを化学研磨する際にもフッ化水素が使用されている。これらに関しては、フッ化水素を代替する策があるほか、加工を韓国以外で行うといった代替案があるため、代替策や代替案の体制づくりに多少の時間を要するかもしれないが、深刻な影響はなさそうだ。

注視すべきは「半導体製造への影響」

 ただし、今回の措置で韓国メーカーの半導体の生産に影響が出た場合、回り回ってFPD業界に影響が及ぶ可能性はある。スマホ用プロセッサーを生産する最先端ラインで使用する高純度フッ化水素は日本メーカーがほぼ100%を供給しており、代替が効かないからだ。例えば、スマホ用プロセッサーの生産減少がスマホ出荷台数の減少につながると、結果的にスマホ用ディスプレーの需要にも影響が出てくる可能性がある。

Galaxy Foldの再発売は?

 ちなみに、輸出管理厳格化の影響が危惧されたGalaxy Foldは、もともと4月26日に発売予定だったが、レビュー用に配布していた端末に不具合が見つかり、発売を延期したままとなっている。サムスンの19年1~3月期決算会見では「故障が見つかったレビュー品を分析した結果、ヒンジの上下にあるディスプレー露出部に力が加わるため、いくつか損傷が見つかった。異物も発見した。根本的な解決策を見つけ、数週間以内に今後のスケジュールを明らかにする」と説明し、5月末の再出荷を目指したが、実現できなかった。

 現状では「8月に開催予定のイベント(Galaxy Unpacked)で再発売の時期を明らかにする予定では」「遅くとも10~12月期中に販売を再開する」「再発売に向けて、改良したフォルダブル有機ELディスプレーの量産を再開した」といった噂が流れており、公式アナウンスが待たれるところだ。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏