マーケットサマリー

インド株式市場は2019年2月下旬から上昇基調にある。債券市場も5月以降、上昇(利回りは低下)している。4月~5月に実施された総選挙では、与党インド人民党(BJP)が圧勝し、モディ政権の続投が決まった。市場はこの結果を好感。第2期モディ政権(2024年までの5年間)は、強い政治基盤の下で、構造改革を推進することが見込まれる。

トピックス

間もなく発表される新予算案の注目点は景気対策

インド政府は間もなく2019/2020年度(2019年4月~2020年3月)予算案を発表する。国内では、経済成長を促進し、経済を成長軌道に戻す対策が打ち出されるとの期待が高まっている。景気の減速は1-3月期の国内総生産(GDP)や最近の経済指標からも明らかである。このため、先の下院総選挙が与党圧勝に終わったにもかかわらず、投資家はインド経済の先行きを懸念している。

新予算案は、ナレンドラ・モディ首相が新財務大臣に任命した二ルマラ・シタラマン氏によって 7月5日に発表される。内容は2月に発表された暫定予算案を大筋で踏襲するものとなる見通しであるが、今回は景気回復と雇用創出に力点が置かれる可能性が高い。

注目すべき点は、政府が財政緊縮にどの程度コミットするかだろう。経済成長は減速しているものの、歳出拡大余地は限られている。今年度の財政赤字幅は、2月に発表された暫定予算案では対GDP比3.4%と想定されていた。税徴収の実態と歳入のトレンドは、今年度予算案で打ち出せる景気刺激策が限られていることを示している。

税制改革に対する国民の期待値も高い。現行の税法は複雑なうえ、抜け穴と控除項目が多すぎることから、新予算案には直接税法の簡素化、税控除の撤廃、課税ベースの拡大に関する政府案が盛り込まれるとみられている。

政府は、国営銀行の再編、インド経済のさらなる発展に不可欠の土地改革と労働改革などの構造改革にも取り組まねばならない。これらはいずれも投資家が待ち望む改革である。

政府が過去数ヶ月間に発表した消費関連指標はいずれも弱く、個人消費の減速を裏付けるものとなった。投資家は政府が個人消費を回復させる対策に踏み切ることを望んでいる。また、消費低迷の一因が地方経済にあるため、政府が新予算案で農家所得を増やす対策を盛り込むことも期待されている。但し、その場合は財政赤字が拡大する恐れが出てくる。

一方、インド準備銀行(中央銀行)は6月6日の会合で3会合連続の利下げを行うとともに金融政策のスタンスを「緩和的」に変更し、景気重視の姿勢を鮮明にした。しかし、余剰準備金の国庫納付は見送りとなった。中央銀行が維持する準備金の適正水準を検討する委員会(座長は元中央銀行総裁)が6月までに報告書をまとめることになっていたが、合意に至らなかった。現時点では、同報告書は 7月後半に発表されるとみられている。

景気と民間投資の回復が急務であることは言うまでもないが、政府が取り組むべき課題はほかにもあり、戦略的ダイベストメント(投資撤退)、インフラ投資の拡大、電力供給会社の経営基盤の強化などが含まれる。

総選挙で勝利を収めたモディ首相は第2期内閣を発足させたが、閣僚の顔ぶれは 1期目から続く課題と選挙公約の実現への取り組みを優先するものとなった。初入閣やポストの入れ替えは少数にとどまり、大きなサプライズ人事もなかった。基本的にはベテランと若手のバランスが取れた内閣と言えるだろう。

鉄道、陸運、電力、エネルギーなどインフラ関連の主要閣僚が再任されたことは第1期モディ内閣が5年にわたって推進してきた政策が引き継がれるという意味で前向きに評価されている。

シタラマン氏は第1期モディ政権で国防大臣を務めていたことから、財務大臣としての手腕を疑問視する声も一部にある。しかし、シタラマン氏は首相府から強い信認と支持を受けており、インド経済が必要とする政策について関係省庁間の調整と速やかな実施を期待できるだろう。

外務大臣には元外務次官のスブラマニアム・ジャイシャンカル氏が任命された。これはモディ首相が世界の地政学状況が大きく変動する中で外交をさらに重視する姿勢を示したものと見られる。

株式市場

2月下旬から上昇基調、足元ではやや上値の重い展開

インド株式市場は2月下旬から上昇基調にある。4月~5月の総選挙では、与党インド人民党(BJP)が単独過半数の議席を確保し、モディ首相が再選された。市場はこの選挙結果を好感している。第2期モディ政権(2024年までの5年間)は、強い政治基盤の下で、構造改革を推進することが見込まれる。なお、足元のインド株式市場は、6月以降、米中貿易摩擦を巡る不透明感や国内景気の鈍化などから、やや上値の重い展開となっている(2019年6月28日現在)

当社の株式運用戦略

当社ではインド株式市場に対する強気な見方を維持している。インド経済は着実に成長しており、構造改革の進展から、成長率はさらに加速すると見られている。また、景気拡大に伴い企業収益が改善するなど、株式市場を取り巻く環境は良好と考えられる。総選挙でモディ政権続投が決まり、政治の不透明感が払拭されたことも好材料。

インド株式の運用では、持続的な収益成長性を有しながらバリュエーションに割安感のある銘柄を選別。業種別には金融、一般消費財をオーバーウェイトとし、エネルギー、生活必需品、ヘルスケアをアンダーウェイトとしている。また、モディ首相は第2期モディ政権の公約として、100兆ルピー(約160兆円)のインフラ投資計画(高速道路建設、都市住宅建設、水供給システム、地下鉄建設など)を発表しており、インフラ関連銘柄が恩恵を受けることが見込まれる。

債券市場

5月以降は上昇(利回りは低下)

インド国債市場は、5月以降上昇(利回りは低下)している(2019年6月28日現在)。モディ政権の続投で構造改革路線継続が見込めることは、債券市場にもプラスに働いている。

インド準備銀行(中央銀行)は6月6日の会合で、政策金利を0.25%引き下げ5.75%とした。また、金融政策のスタンスを「中立」から「緩和的」に変更した。これは中央銀行が景気重視のスタンスを明確に示したものであり、緩和サイクルの継続が見込める。

当面は、7月5日に発表される2019/2020年度(2019年4月~2020年3月)の新予算案が注目される。

当社の債券運用戦略

インド債券市場は、グローバル投資家にとり良好な投資機会を提供していると見ている。インド経済はインフレ率を歴史的低水準に抑えながら高い成長を続けており、ファンダメンタルズは良好である。また、インド国債は投資適格級ながら、利回りが高水準にある点も注目される。

インド債券の運用においては、引き続きインドルピー建国債に重点を置いて投資している。また、この他、短中期のインドルピー建社債を選好している。一方、米ドル建債券には慎重な姿勢を維持する。

為替市場

インドルピーは対米ドルで一進一退、対円では弱含み

インドルピーは5月以降、対米ドルでは一進一退、対円では弱含んでいる(2019年6月28日現在)。

ルピー相場は、相対的に良好な経済ファンダメンタルズや潤沢な外貨準備高が支援材料になり、中長期的に堅調な展開が予想される。総選挙が終了し、政治の不透明感が払拭され、第2期モディ政権下で構造改革路線が継続する見通しとなったこともプラス要因。