昨今、目することが多いワード、妊娠した女性に対する嫌がらせをする「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」や育休取得など育児参加する男性に対する嫌がらせの「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」。皆さんは実際に遭遇したり、相談を受けたりしたことがありますか?

最近では、大手化学メーカー「カネカ」の元社員の妻が「夫が育休明けに単身赴任を命じられた」とTwitterで告発した内容がパタハラではないか、とメディアなどで大きく取り上げられましたね。しかし、今、ツイッターに投稿された、ある漫画が、「企業の現実を如実に示している」と話題になっているようです。

結婚を報告したら自主退職に追い込まれた!?

発端となったのは、2019年6月10日に、はるか(@haru_confetti)さんによってTwitterに投稿された、5年前の経験談をもとにした漫画でした。

大まかな話の流れとしては、これまで仲の良かった上司(女性)に結婚報告をしたところ、「結婚とか(それ以降の産休、育休、急な欠勤を考えても)、迷惑なんだけど」と言われた後、パワハラを受け、結果的に自主退職することになった、というものです。

漫画内では上司は以前も同じようなパワハラをしていたことが判明。この上司は、かつての上司の結婚や妊娠によるしわ寄せを受けた過去の腹いせとして、結婚・妊娠などの報告をした部下らにパワハラを行うようになったのではないかと、はるかさんは推測しています。

役員に相談するも、「彼女がいなければ仕事が回らないから」という理由で、解決に至らず。同僚・配偶者・他部署の上司などの協力はあったものの、自己都合による退職に至ったと述べています。

このツイートは、1.3万のリツイートを受けるほど拡散されました。

賛否両論、上司も一方的な加害者ではない?

はるかさんがこの漫画を描いた背景にあったのは、男性育休義務化のニュースを受け、「男女関係なく、産休・育休を取りたい人が好きに取れるようになってほしい」「産休・育休のフォローをする人の負担を軽くして働きやすくなってほしい」「そして、私みたいな想いをする人が減ってほしい」という願いでした。

この一連の漫画を見て、寄せられた反応としては、筆者への共感や励ましのほかに、「上司の気持ちもわかる」といったものや、「そんな会社辞めて正解」といったもの、社会の体制の見直しを考える声なども見受けられました。

同様の体験として寄せられたものとしては、

「凄く分かります…私は入社時男性の上司に「妊娠子育てはばっち理解があるから!」と言われ、その後そろそろ子供が欲しいと周りに言った辺りから仕事量を増やされ、妊娠したら「迷惑」と言われ自主退職させられました」
「私も職場に妊娠を伝えたら辞めるように言われたことあります」
「私の友人は、勤続20年の会社を、結婚したことで左遷、自主退職に追い込まれました。「妊娠したら会社に迷惑」と同じことを言われてました」

など、結婚・妊娠報告で辛い思いをした方は少なくないようです。また、「上司の気持ちもわからなくもない」とする声としては、

「上司もある種の被害者なのよね… 」
「抜けた穴を独身が埋めるべきみたいな風潮もちょっとな...」

と、筆者が上司へのフォローを描くのと同様に、上司側の事情を考える声があります。また、体制の見直しの声としては、

「「アイツがいないと会社回らないだろ?」って言われて擁護されるの、人を育ててない上役が無能なのでは?」
「フォローしやすくするにも会社の内部体制を整えるところからなんですよね」
「産休育休取らない人もたまには長い休みが取れたらいいのかな」

などといった考えがありました。

独り身などにしわ寄せがいってしまう現状

男性育休の義務化のニュースの一方で、昨今は、強硬な転勤・異動・降格などのひどいマタハラ・パタハラのニュースも絶えません。また、妊活・妊娠・育児の情報サイト「赤ちゃんの部屋」による調査では、「経産婦の3人に1人がマタハラにあったことがある」との結果を報告しています。

とはいえ、そういったハラスメントの影には、独身者などへの「仕事のしわ寄せ」の問題があることも少なくありません。もちろん、ハラスメントが正当化されていいわけではありませんが、現実として、産休・育休時の穴埋めにすぐ人を確保できる会社ばかりではありません。抜けた人の業務を部署内だけで分担せざるを得なくなった結果、誰かにしわ寄せがいき、不満が溜まってしまうという状況が起こることもあります。

「仕事を積極的に背負ってくれる人が現場にいる」という幸運な会社ばかりではないでしょうし、先ほど挙げた投稿が示すように、「属人化」の問題とも相まって、パワハラやマタハラ・パタハラなど、ゆがんだ形で不満が噴出する可能性もあります。少し話しはズレるかもしれませんが、仕事のしわ寄せによって「婚活する暇がない」「もう一人、子どもを持つ余裕がない」という問題も出てくるかもしれません。そして最近は、ここに介護休業への対応も加わってきます。

産休・育休および介護休業は、法律で認められた働く人の権利であり、一人ひとりに保証されるべきものであります。しかし、実際の現場での対応がうまくいっていない、というのはまさに現在の「企業のリアル」なのかもしれません。

企業の人材管理だけでは限界!?

雇った時点では、結婚・妊娠・介護に関する予測もほぼできませんから、企業側としても対応が難しいところではあります。また、だからといって、たとえば「産休・育休・介護休を取りそうな人は、休まれてもリスクの低いポジションにすべき」という考えは時代に即していませんし、「男性育休義務化」の時代に、そういったやり方は意味をなさなくなるでしょう。

働くパパ・ママや働きつつ介護をする息子・娘といった人が増えている時代に対応して、企業としてはさらに余裕や柔軟性を持った人材管理・進捗管理が必要になっています。ただ、経済が右肩上がりではない時代に、企業の努力だけでは限界もあるのかもしれません。政策上でもさらなる啓発やサポートが求められるところです。

もちろん、単に制度や枠組みがあればすべて解決するわけではなく、それらをうまく回すためには、われわれの「意識の変化」も欠かせません。働く身としては、ひとまず「持ちつ・持たれつ」の精神を大切にしたいものです。「産休・育休・介護休」などを取る人は、「当然の権利だし、行使して何が悪いの?」ではなく、「助けてもらって感謝」「別の機会には自分がフォロー側に回る」という気持ちを大切にしたいですね。また、独り身だったり、特に家庭で困りごとがない人も、今は「フォロー」に協力しつつ、いざというとき「自分に何かあったら、助けてもらえる」と安心して働ける環境があるのは心強いはずです。そうして、お互いに「少しずつ支え合える」土壌ができていくといいですね。

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