政府の旗振りもあり、企業の「副業解禁」の動きは、さらに大きく広がっていきそうだ。また、働き方改革で仕事の環境が改善されていくことで余暇の時間が増えることも予想され、それを「何に充てるか」が注目されている。

『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』の著者で、現在はコンサルタントとして活躍する村井庸介さんは、「たとえ就業規則で副業が認められても、実際、いざ副業をするときには、多くの人が『ある問題』にぶつかります」と指摘する。具体的にどんな問題なのか、またそれを解決する方法としての「サイドプロジェクト」という考え方について、村井さんに解説してもらった。

優先順位づけで起きる「副業の問題」

 副業の解禁については、働き方改革の旗のもと、2018年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の中でまとめ上げ、「モデル就業規則」から副業禁止の規定を削除しました。最近では、メガバンクのみずほフィナンシャルグループでも、2019年度の後半には副業が認められる方向だといいます。

 たとえば「業務の請負型」の副業は、試しに取り組みやすいのですが、一方で、正社員の業務を持ったまま行うと、ある「問題」を抱えやすくなるのです。

 私も恥ずかしながら失敗経験があります。とあるベンチャー企業がベンチャーキャピタルからの資金調達に向けて事業計画を作り直したいというプロジェクトでした。

 当時は、勤めていた会社の従業員としての別の職務があるなか、睡眠時間を削るなどしてプロジェクトの仕事を進めたものの、先方が期待する期日には、プレゼンテーション資料を納品することができませんでした。たまたま先方の社長が寛大だったので、期限が延長され、その後、結果としては同社の大型調達につながっていくのですが、当時の私としては、悔しい思いが残った体験でした。

 こうしたことは私だけではなく、副業経験者が多かれ少なかれ経験しているようです。このとき痛感したのは、気づかぬうちに「主」と「副」という業務の意識分類ができてしまっているということでした。一般的に、主で所属する会社と副業の会社の業務の期日が重なったとしたら、本業の上司のリクエストのほうが通りやすいでしょう。結果として、しわ寄せは副業にいきます。ただ、「本業のほうが優先だから」という論理は、当然ながら副業側には通用しません。そのため、働く個人も受け入れる会社も、結果的に思った通りの成果を得にくい場合も多いのです。

 では、このような問題を回避しつつ、かつマルチに仕事を楽しめるようにするには、どのようにすればよいのでしょう?

経営者はなぜ複数のプロジェクトを回せるのか?

 問題解決のヒントとして、「複数のプロジェクトを持ちながらも充実して仕事をしている人」を見てみましょう。たとえば、「企業の経営者」はどうでしょうか? 多くの場合、複数のお客様を持ちながら、仕事をうまく回しているように見えます。なぜそんなことができるのでしょうか? その理由は、大きく2つあります。

1.協力者がいること
 経営者の場合、社員に何か頼んだり、自らの収入の中でさらに外部の取引先に仕事を依頼したりすることもできます。「すべて自分で抱える」必要がないため、複数のお客様相手でも時間を有効活用することができ、「どちらを取るか」という問題も発生しなくなります。

2.「自分で決められる」ということ
 こちらのほうがより重要といえます。企業経営の場合、株主の要請もありますが、基本的には経営者が自ら、「どの程度の売上」を挙げ、「どのようなお客様」と仕事をしたいかを選べます。極端な話、「自らの収入を多少捨てても少数のお客様に集中したい」といった選択を取ることができます。「主と副」という選択ではなく、「複数の選択肢の中から、自ら最適な方法を選ぶ」という視点を持っているため、報酬を含めた期日調整もコントロールし、問題を未然に防いでいることが多いといえます。

 当然ながら、上のようなメリットがあるとはいえ、「社員の立場をやめ、経営者になろう」と推奨するわけではありません。リスクも相応に大きいからです。では、経営者が持つメリットを、会社で働きながら受け取ることはできないのでしょうか?

サイドプロジェクトとは?

 副業については、現在、クラウドソーシングやスキルシェアリング、ベンチャー企業への就業体験など、さまざまなサービスが見られますが、上記のような疑問への答えとして、私が推奨したいのは「サイドプロジェクト」です。

 サイドプロジェクトは、ここでは、「『何か人の課題解決につながるサービス』を自ら企画し、運用する中で、何かしらの成果を得る活動」と定義します。就業体験や、一部のクラウドソーシングのように業務を請け負う形の仕事とは異なる活動を指します。

 最近では、企業に勤めながらも、さまざまな講演やオンラインサロンなどに呼ばれ、多くのファン会員を持つ「プロフェッショナル社員」のような方々も増えてきています。

 彼らの多くは、ブログやSNSでの情報発信を通じて、人々の行動変化や学びを提供しています。結果、著作などの発表や、自らの発信する企画で収益を得ることにつながっています。さらに、仕事での経験が情報発信の質の向上につながり、こうした経験の「かけ算」の効果で、結果的に会社での仕事と自身の仕事を往復可能な「複業」となっていることが多いように思います。

サイドプロジェクトが良い3つの理由

 サイドプロジェクトでは、「何をどこまで頑張るか」を決めるのは、自分自身です。そのため、もともと副業が抱える「優先順位」の問題は緩和されやすくなります。

 加えて、自らの企画に対して、世の中の収入や「いいね」などの反応がわかり、結果として、経営者の目線や悩みが疑似的に体験できます。たとえば、自らのお金で広告を出稿した場合、お客さまが来なかったときには、少額とはいえ、少し「胃が痛い」感覚も味わうことでしょう。そうした体験を経ることで、あなたの会社内での働き方にも経営者目線が加わり、経営層の意図を組んだ企画提案ができるようになるのではないでしょうか。

 サイドプロジェクトのもうひとつのメリットは、「自ら企画する体験」を通じて、自身が大事にしている「価値観」や、「世の中から感謝されやすいこと」が浮き彫りになってくることです。1つの企業の中だと、似たような職種・業務を行う人が多く集まるため、たとえその人の良さが表れている仕事でも「当たり前」に見えて、自身の特徴がぼやけてしまうことがあります。しかし、一度、外部に出てみると、「えっ、こんなことで感謝してくれるの?」という驚きに出合うことは多いものです。

 たとえば、私はもともとシンクタンクに勤めていたのですが、以前から手がけているNPOの就職支援事業の中で、セミナー講師を務めると、「説明がシンプルでわかりやすい」と、参加者や運営関係者からフィードバックをいただくことがあります。学生時代から水泳部のコーチを務めるなど、「人に説明することが好き」で、コンサルティング会社でも経営者や社員の方々に「簡潔に問題の構造を説明する」といった訓練を重ねていたことが、結果として他人から感謝される「自身の価値」につながっていたのだと思います。

 さらに、私自身、複数企業で結果を残した中で、仕事のベースになる成功手順=「仕事の型」を身につけていくことができました。これも、その他の経験と「かけ算」していくことで、結果的に「仕事の型」を一冊の本としてまとめ、多くの方にお読みいただけるという「経験の幅の広がる循環」が生まれていったのです。

 このように、単なる「副業」ではなく、サイドプロジェクトを通じた「経験のかけ算」のおかげで、さまざまなチャレンジをさせていただくことができました。

筆者の村井庸介氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

まずは1つの「経験」を磨こう

 こうした「経験のかけ算」の時代ではありますが、たとえば「0.9×0.9=0.81」のような、自分の価値を落としてしまう働き方でなく、「1.2×1.2=1.44」と世の中の感謝がより大きくなっていくような働き方をしていくことが大事です。

 そのためにも、まずは今の職場などで「これだ!」と思える仕事にチャレンジしてみることをお勧めします。そうしたチャレンジが見当たらないというときは、いまの職場の中で自ら企画提案してみるのもいいでしょう。

 一方、ある程度、経験がある方については、「自身の経験の棚卸し」をされることを勧めます。その中で、自分が大事している価値観や、成功体験の特徴的なパターンが見えてくると思います。

 先ほども少し触れましたが、私が新卒1社目に勤めたシンクタンクで教わった「仕事の型」として「GISOV」というものがあります。これは次の5つの頭文字をとったものです。

G:Goal(ゴール:目的・目標)
I:Issue(イシュー:課題)
S:Solution(ソリューション:解決策)
O:Operation(オペレーション:実行計画)
V:Value(バリュー:付加価値)

この視点は、仕事の振り返りにおいても活用できます。興味をお持ちいただいた方は、ぜひ拙著をご覧いただきたいのですが、自分の成果が生み出せた経験を、「どんな目的に向け、課題をどのように解決するか考え、実行に移したのか、なぜそれをあなたはできたのか」といった視点で振り返ることで、サイドプロジェクトにも活かせる「あなたの特徴」が見えてくると思います。

 働き方改革等で「余暇」が生まれやすくなったこの時代だからこそ、「自身の価値が十二分に発揮される未来」のために、より時間と力をかけてみてはいかがでしょうか?

村井氏の著書:
どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」

村井 庸介