DIAMアセットマネジメント株式会社 西惠正 × 楽天証券 楠雄治

DIAMアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長の西惠正氏に、2015年12月以降順次「たわらノーロード」シリーズとして低コストのインデックス投信をリリースしているが、同シリーズへの想いと、最近の市場動向についてお伺いしました。さらに楽天証券 代表取締役社長の楠雄治氏に、販売証券会社の立場から同シリーズをどう見ているのかも伺いました。

投資家に伝えたい3つのポイント

これから本格的に投資をする方は、しっかりリスク分散をして、大きな相場調整局面を乗り越え、長期投資で経験を積んでいくべきです。

そうした投資家のために、きわめて低コストで分散投資を行うために6本の投信を用意してスタートしたのが「たわらノーロード」シリーズです。

2016年は中国経済や米国の大統領選などの変動要因がありますが、米国は相対的に景気が好調で、中国には景気を支える余力があります。年後半に向けて、株式市場が落ち着きを取り戻し回復に向かう可能性が十分あります。

オリンピックより頻繁に起きる市場の危機を乗り越えろ

――「たわらノーロード」を開発する背景になる、個人投資家の拡大についてどうお考えですか。

DIAMアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 西惠正氏(以下、DIAM 西):私は銀行のポートフォリオ運用に30年ほど携わってきましたが、その経験を踏まえてお話すると、個人投資家の方が一番投資で難しく感じることはマーケットの変動の大きさだと思います。マスメディアで報じられるように、景気の良し悪しに素直に連動して話が進むのではあればいいのですが、突然相場が急落することがあり、これが投資を続ける障害になると思います

かつてのブラックマンデーから、最近ではリーマンショック以降ギリシャ危機までを数え上げると大きな危機だけで8回も起きています。オリンピックよりも頻繁です。

頻発する危機を乗り越えていくのは個人の方にはなかなかハードルが高いと考えます。しかし危機で投資をやめてしまうと経験が積み上がらないのです。

――経験というのは大切なのですね。

DIAM 西:投資には経験と運が重要だと思います。

運というのはある意味避けられないと思います。リーマンショックの前に投資を始めた方と、後に始めた方ではそのパフォーマンスが変わってしまうのは致し方ない面もあります。

しかし、運の要素をできるだけコントロールすることで、運が良くても悪くてもある程度のリターンが出るように投資をしていかなければなりません。こうして投資を継続し、経験値を積んでいくことが、これから投資を本格的に始めようと考えている方には大切になります。

DIAMアセットマネジメント株式会社 西 惠正社長

運をコントロールし経験を積むには低コスト投信による分散投資が最適

――「たわらノーロード」シリーズはこれに応えるわけですか。

DIAM 西:その通りです。リスクをコントロールしながら経験を重ね、長期投資で成果を出していただくには、投資資産の分散、投資タイミングの時間分散、そして低コストが必須だと思います。こう考えるからこそ、「たわらノーロード」は当初から6本のアセットクラスをそれぞれ低水準のコストで用意しました。そして今後も、例えばエマージングインデックスなど、シリーズの拡充に取り組み、個人投資家の方々の資産形成にお役に立ちたいと考えています。

――楽天証券の「たわらノーロード」シリーズの販売動向を見ると、「先進国株式」が一番売れているようです。どう見ておられますか。

DIAM 西:日本株の方が売れると考えていましたので想定外でしたが、個人の方は、為替について慣れている方が多いため、「先進国株」の方が注目されたのかもしれません。いずれにせよ、投資を「楽しむ」ことはとても大切なことですので良いことだと思います。投資家の方々の中には、「俵」を積むように中長期の資産形成を考えている方も多いのかとも考えました。

ただ、一点張りをするのではなくて、ぜひ分散投資を進めていただきたいというのが、私の願いです。

楽天証券 代表取締役社長 楠雄治(以下、楽天証券 楠):積立のお客さんの動きを見ると、一つの投信で月1,000円から積立ができますので、初めに2、3本を同時に始める方が多いです。そして半年くらい経ってなじんでくると毎月の積立金額が増える傾向が見られます。投資家の方も、積立をするのに銘柄を一つに絞り込むというのは難しい決断なのですね。6本のシリーズでスタートしたことで、投資家は手掛けやすいと思います。

――今後、個人投資家の方に向けてどういう商品を揃えていくお考えですか。

DIAM 西:まず、エマージング株は基本的な投資資産の一つですので、選択肢の一つとして考えています。それに加えて、今後は少し商品性を変えていきたいと思います。一つはテーマ性のあるもの、もう一つはスマートベータ的なものも有望な選択肢の一つと考えています。

楽天証券 楠 雄治社長

今後手掛けるべきは、IoTとAIを軸にしたアクティブ投信

――テーマ性のあるものを、というお話ですがアクティブ投信ということですか。

DIAM 西:「たわら」で資産形成の骨格部分の商品の品揃えが進みましたので、「たわらシリーズ」とは別にアクティブ運用の投信を考えています。相場が乱高下するようになってきましたので、アクティブのファンドマネージャーの出番が来ているという認識がありますし、IoTやAIに関連するテーマは投資対象として魅力的だと見ています。もちろん、アクティブとして、手数料をしっかりいただき、それにふさわしいリターンを出せるようしっかり準備をしています。

TOPIXをベンチマークにしてしまってはついつい手数料に目が行ってしまいます。そうではなくて、個人の投資家の方が有望なテーマに沿って独力で銘柄を探して運用し管理するだけの手間暇を、我々のノウハウで代行するという考え方です。

――IoTやAIの関連領域とは、もう少し具体的にはどのようなテーマですか。

DIAM 西:IoTやAIを扱った産業ということでくくって考えています。フィンティック、スマート農業、自動車の自動運転、介護等を含めたヘルステックなどです。

この領域は今後相当伸びると考えています。例えば自動車ならば、パーキングロットに入れるための自動運転システムの開発が一例です。そのときに、IoTプラスAIのコンビネーションで将来性が決まります。ここで大切なキーワードは、従来の縦割り的な業種の考えでは捉えられないということです。例えば自動運転の世界で非常に伸びる会社は自動車会社だけでなく、運転システム開発の部品メーカーであることもあれば、駐車場の運営会社ということもあります。一つの縦割りの産業で固定化して考えてはいけません。

医療で言えば、ベッドの自動化ならばベッド関連企業かもしれませんし、カルテの自動化をすれば、まさにAI的なことになっていきます。金融とテクノロジーとの融合も出てきます。

――IoTやAIというと、身近に有望な銘柄はありそうですか。

DIAM 西:日本人は、iPhoneのように、金融の世界ではオプション理論のように、何もないところから新たなアイディアで作っていくことには向いていないですね。

ところが、このIoTプラスAIの世界は、「作り込み」の世界です。ユーザーに対してどこまでフレンドリーであるか、徹底していくのは日本人向きです。例えば介護であれば、症状をつぶさに分析することで、何時間後かに転倒してしまわないかを診断できるという話もあります。私は、こうした領域はかなり成長を期待していいと考えています。

「スマートベータ」も選択肢の一つ

――スマートベータも有望な選択肢のひとつということでしたが。

DIAM 西:スマートベータ戦略は、DIAMが年金・機関投資家を中心に長年の実績を有する戦略であり、たわらシリーズもしくはETFの選択肢の一つだと考えています。内容に関しては、今回、日銀が言い始めた投資に前向きな成長企業群を意識しています。最近の流れであるIoTの成長企業とオーバーラップするところもあるかもしれません。このような「頑張れアベノミクス」的なファンドが市場で受け入れられるのか見極めていきたいと思います。

ユーザーニーズに応え続ける楽天証券の投資信託の品揃え戦略

――楽天証券の投資信託の品揃えはどういう方針ですか。

楽天証券 楠:楽天証券は運用会社と投資家の間にいるディストリビューターですから、スクリーニングをしっかりやりつつ、顧客の要望には最大限応えるべきだと考えています。日本中にある投信は現在5,000本で、現在当社は約2,000本を扱っていますが、ぜひ全部扱いたいと思います。当然、説明責任やフィデューシャリーをしっかりと確認しながら極めて前向きに取り組んでいます。

――品数が増えると、かえって顧客にとって選択が難しくなることはありませんか。

楽天証券 楠:その点も意識しています。ネットの顧客に対しては、豊富なラインナップの中から、選びやすいインフラをきちっと提供することが重要です。さらに、相場によって都度都度注目すべき投信を紹介すること、あるいは「たわら」のように手数料をアグレッシブに下げて勝負しているファンドをきちんとピックアップしてマーケティング活動をしています。おかげさまで口座数が200万を超えてきました。今後は今まで以上により丁寧に、肌触りも感じられるマーケティングを目指したいと思います。

2016年の相場は年後半に回復か

――2016年はどういう年になるでしょうか。

DIAM 西:昨年8月以降の中国の政策は、やや時期尚早なものだったかもしれません。株が苦しくなったにもかかわらず、人民元のマーケットをオープンにした途端、人民元は下落してしまいました。日本では為替が下落すると株が上昇するケースが多いのですが、中国の場合、為替の下落を見て株の投資家が安心するということがなく、株も下落してしまいました。政策で株を買い支えればよかったのではないでしょうか。中国では資産価値が落ちると国外で資産を維持したいと思う人がいて、キャピタルフライトが起きてしまいます。

ただ、金利に低下余地があり対策の手段はまだ持っていますし、外貨準備もありますので、6カ月以内に何らかの対応をしてくるでしょう。よって中国株の下落はどこかで止まると思います。為替を今後も相当買い支えしないといけない状態になるとは思いますが。

中国の状況が良くなれば、日本株は原油安のメリットもあって22,000円ぐらいの業績を達成するだけの力は、まだ残っていると思います。

――非常にわかりやすい解説ですね。そうすると強気ですね。下げたら買うべきですね。

DIAM 西:日本のファンダメンタルはあまり変わっていません。これまでアメリカの金利が上がるときは、日本株も上がっています。予定どおり4回利上げをした方が景気に対する安心感が出て、日本株にとってもいいはずです。ドル円も安定するでしょう。

むしろリスクは、FRB(米連邦準備制度理事会)が思っているように金利を上げられないときの方が、リスクがあるのではないかと思います。最近の米国の長期金利の動きにその兆候も見え隠れします。大統領選の行方も気になりますね。

楽天証券 楠 雄治社長(左)、DIAMアセットマネジメント 西 惠正社長(右)

――最後に、個人投資家の方にメッセージをいただけないでしょうか。

DIAM 西:ぜひ「たわら」を活用して、1個、1個、俵を積み上げるように、基礎となるポートフォリオを作っていただいて、それをベースにして、投資を楽しんでいただきたいと思います。投資は、マネーゲームとも投機とも違う、中長期で自分の資産を大事に育てていく手法なので、今申し上げたようなことをぜひ実践していっていただきたいです。

楽天証券 楠:ネット証券も当初は比較的マーケットが好きな人に集まっていただきトレーディングをしていたという世界だったんですが、ここ何年かで大きな変化を感じています。資産形成が非常に重要なポイントになってきています。

そうすると、積み立てもそうですし、「たわら」のようなローコストで分散投資をするアプローチを通して、自らの将来にわたる資産を作っていくことが非常に重要になってきています。さらに、NISA、ジュニアNISAなど税金の部分も、投資にメリットが出やすい環境へ変わっていますので、我々は今まで以上に多面的に投資家の方々をサポートしたいと考えています。

――本日はどうもありがとうございました。

DIAM 西、楽天 楠:どうもありがとうございました。

Longine編集部