少子高齢化によって、日本は輸出に頼らない国になっていく、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。

従来は輸出が命綱だった

戦後の日本は、外貨が決定的に不足していましたから、資源を輸入するための外貨を輸出で稼ぐ必要がありました。したがって、米国が不況になって対米輸出が減ると、外貨が不足して大変困ったわけです。「米国が風邪を患うと日本は肺炎になる」と言われたものです。

その後、高度成長期には輸出産業が成長して輸出が増え、日本経済の外貨不足は解消しましたが、高度成長が終わると今度は需要不足に悩むことになりました。内需が弱いので、需要としての輸出が必要になったのです。

バブル期には珍しく需要超過でしたから、「輸出が減ったら国内で売れば良い」ということで、海外の景気などについて気にする人は少なかったのですが、バブル崩壊後の長期低迷期には内需が本格的に不足していて、輸出が景気の命綱となったのです。

アベノミクスで労働力不足になるまでの間、ITバブルの崩壊やリーマン・ショックといった海外からのショックで日本経済は何度も翻弄されたわけです。輸出が減って輸出企業の雇用が減ると、失業した人が所得を失って消費を減らすので、さらに景気が悪化するという悪循環が生じたのです。

労働力不足で悪循環が生じにくくなった

今は少子高齢化による労働力不足とアベノミクスによる好景気の相乗効果で、大幅な労働力不足となっていますが、10年も経つと少子高齢化が進むため、「好況だと超労働力不足、不況でも少し労働力不足」という時代になるでしょう。

そうなると、需要としての輸出の重要性は低下してきます。輸出が減って輸出産業が雇用を減らしても、そこで失業した人は容易に別の仕事を見つけることができるようになるからです。失業者が消費を減らしてさらに景気を悪化させる、という悪循環が生じにくくなるのです。

今後はむしろ、輸出企業が労働力不足で生産を増やせず、仕方なく海外に工場を移転する、ということも起きるかもしれません。そうなれば、これまでの輸出に関する考え方を根本的に見直す必要が出てくるかもしれません。

需要としての輸出が不要なら、円高も怖くない

「円高だと輸出企業の利益が減って景気に悪影響が出る」と言われますが、これは二つに分けて考える必要があります。「輸出数量が減って製造業の生産が減って雇用が減る効果」と「輸出企業が持ち帰った外貨が安くしか売れない効果」です。

前者に関しては、今後は従来ほど気にならない、と上に記しました。後者に関しては、実は今でも全く気にならないのです。それは、「輸出企業が持ち帰った外貨が安くしか売れない分と、輸入企業が支払いのためのドルを安く買える分が概ね等しい」からです。

デフレ気味の経済であれば、円高により輸入物価が値下がりしてデフレを深刻化させてしまう可能性もありますが、少子高齢化による労働力不足で賃金が上がりつつありますから、デフレが再燃する可能性は高くないでしょう。

経常収支の赤字転落は、かなり先の話

「海外の景気が悪化して輸出できなくても、日本経済は大丈夫」だとしても、今度は「労働力不足で輸出ができないから経常収支が赤字に転落する」というリスクはないのでしょうか。