働く上で多くの人が気になるのが「年収」だが、その数字は何がどうなって決まってくるのか。『どんな会社でも結果を出せる! 最強の「仕事の型」』の著者で、コンサルタントとして活躍する村井庸介さんは、「年収は『優秀さ』だけでは決まりません」と話す。

 この記事では、自身も豊富な転職経験を持つ村井さんが、同書をふまえて、年収は何によって決まるのか、どんな職種だと年収が高くなるのか、そして転職するにしても会社にとどまるにしても「うまくいく人」の思考のテクニックを解説する。

よくある「年収アップ」広告の不思議

「年収が800万円以上の転職を目指すあなた」「年収200万円UP」といった転職を促す広告を、Webや電車の中吊り、タクシー内CMなど、さまざまなシーンで見るようになりました。

 ただこれは、ふと考えると不思議な話です。転職した時点で、その人が急に優秀になるとは考えにくいでしょう。「労働市場」という言葉もあるぐらいですから、その人が「仕事で発揮する価値」と「年収」は一見、比例しそうです。しかし、実際のところ世間では、外資系投資銀行で働く新入社員の年収が、大手製造業の30代エース社員より高いといったことを多々見かけます。

「年収だけで仕事を選ぶべきではない」という考えもありますが、家族をきちんと養っていきたい、あるいは年収を上げて人生での経験を増やしたいという動機は決して悪いものではなく、むしろ健全なものだと私は考えます。また、人生のどこの段階にいるかによっても、仕事や家族の優先順位は変わるでしょう。

 実際に私も、転職の際に「夢」を狙って年収を200万円下げた途端に生活に困ったこともあれば、年収を倍にしたこともあります。ついでにいえば、事業開発・組織人事のコンサルタントとして独立して以降も、仕事上で同じサービスを提供しても、企業によって「支払いたい額」が異なるものです。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?

 実は年収に関しては、思ったほど「自身の優秀さ」では決まりません。私自身、計7回の転職、累計500名の就職活動支援、そしてコンサルタントとしてさまざまな企業の優秀な方と時間を過ごした経験から、「年収は、業界と職種でほとんど決まってしまう」という考えに至りました。では、なぜそうなるのか、それぞれ理由を見ていきましょう。

年収1000万を超える企業の特徴

 東洋経済新報社が毎年発表する「年収ランキング」を見ると、総合商社、M&Aアドバイザー、投資会社、テレビ局、システム会社などが「年収1000万円を超える企業」として登場します。これらの業界に特徴的なのは、企業経営に必要な「人・モノ・カネ」のうち、モノをほとんど必要とせずにビジネスが成立することです。そしてこれらの業種は、レストランや小売のように「ある程度、値段に上限や値下げ圧力がある業界」とは異なり、値段の上限も上げやすいのが特徴です。

 そのほか、免許が必要となる業種や特許などで守られている業界や会社も、ライバルの参入が少なく、業界内の競争も他業界と比べれば厳しくないことが特徴としてあります。

 これらの業種は会社が利益を保ちやすく、結果として競争力の源泉である「人」に報酬を支払いやすくなるといった構造があります。つまり、どの業界にいるかで、会社が社員に払える「余力」は決まってしまいます。そのため、あなたの年収は、あなたの優秀さ以上に、「どの業界で仕事しているか」で左右されてしまうのです。

 しかし、一見、儲かりにくいと思われる業界でも、独自のビジネスモデルやポジショニングを取ることで高収益を保っている企業もあります。一例を挙げると、京都を中心とした関西系の製造業は、世界でも高いシェアを誇る製品を持ち、利益が悪いと思われる製造業の中でも高い利益水準を保っている企業が多くあります。

 ここまでは、「業界や会社のビジネス構造が、年収の大枠を決めてしまう」というお話をしてきました。では、「職種」はどのように年収に影響してくるのでしょうか?

「お金に近い職種」ほど高報酬になりやすい

 一般には、「営業」や「マーケティング」といった職種のほうが、管理部門より年収が高いといわれます。その違いは、「お金との距離の近さ」にあります。

 一番わかりやすいのは営業職です。彼らが「売る」ことで会社に収入がもたらされ、人の給与などの支払いあてることができます。圧倒的な実力を持つマーケティング部門が社内にあれば、営業よりも彼らが高い報酬を得ることもあるでしょう。これらの職種は、会社に収入をもたらせる距離にいるので、多少は高い年収を支払っても、それ以上のお金を回収できるのです。

 また、一見すると報酬が低い管理部門の中でも、「財務」は給与が高くなる傾向があります。というのも、彼らは資金調達を通じて企業活動の資金を確保します。また、コスト削減活動などを通じてお金の確保もしやすい立場です。さらにはM&Aで会社の成長に寄与することもできます。結果、営業職と同様に高い報酬を支払ったとしても、会社により多くの資金をもたらしてくれるのです。

 一方、私もかつて務めた「人事」は、企業の競争力の源泉となる「人」に関わる重要な職種の割に、報酬が上がりにくい職種でした。人事の業務は、たとえば採用ひとつとっても求人やシステムに費用がかかり、かつ入社した人が成功するまでの時間とお金がかかり、しかもそうして採った人が成功するとは限りません。そのため、会社としても思い切って給与を出しづらいという動機が働いてしまいがちです。

 どの職種・職務も、会社にとって欠かせないものではありながらも、結果として報酬は、「お金との距離の近さ」で差がついてしまうことが多いのです。

 では、もしあなたが年収を上げたいと思ったときには、どうすればよいのでしょうか?