ソニーは5月21日に開催した「IR Day 2019」で、2025年度までの半導体事業の展望を示した。イメージセンサー市場の金額シェアを18年度の51%から25年度には60%まで高めることを目指すとともに、現在は数%にとどまっているセンシング領域の売上構成比を30%に引き上げる方針だ。

21年度以降は成長率鈍化を想定

 18年度の半導体事業は、売上高が前年度比3%増の8793億円(うちイメージセンサーは同10%増の7114億円)、営業利益は同12%減の1439億円だった。19年度は、売上高9900億円(うちイメージセンサー8400億円)、営業利益は1450億円を計画している。

 主力のイメージセンサー市場について、21年度まではスマートフォンの多眼化やイメージセンサー素子の大判化で年率13%の成長が続くが、以降はスマートフォンの多眼化などが落ち着き、年率3%に鈍化すると想定。このなかで、21年度まではイメージセンサーの需要増に対応する設備投資を拡大するが、以降はAIやソフトウエアを組み合わせてイメージセンサーのユースケースの拡大に取り組み、利益率向上とキャッシュフロー創出を図っていく考えを示した。

 AIに関しては、先ごろ米マイクロソフト(MS)とクラウド領域で提携すると発表した。「AIエンジニアは自社にもいるが、外部のAIパートナーとも連携している。MSを含め、自社で足りないところはパートナーをどんどん活用する方針」と説明した。

21年度までは積極投資

 設備投資に関しては、19~21年度の3年間に約6000億円を投じ、イメージセンサーの月産能力を現有の10万枚(300mmウエハー換算)から13万枚へ増やすことを公表済み。また、21年度以降の需要に対応するため、約1000億円を追加投資して増設棟を新設することも検討中だが、21年度以降の投資はこれよりも減額する。

 一方で、ROIC(投下資本利益率)は18年度実績で15%だが、設備投資の減少に伴う償却費の軽減などによって、25年度には20~25%まで高める考え。研究開発費についても「売上高の15%までにとどめるのが理想的だが、18~19年度はセンシング領域の増加でこれより多い。ただし、20年以降は落ち着いてくる」と説明した。

 設備投資において、イメージセンサーのさらなる微細化に関しては「必要かどうかも含めて(画素セルサイズ)0.7μm以下への検討も続けているが、やるなら高度な投資が不可欠で、投資効率が悪化する可能性がある。すべて自前でやるのか、ファンドリーと微細プロセスを共同開発するのがよいのか、様々な検討が必要」と述べた。

フュージョンでセンシング領域を拡大

 今後の業績拡大を担うセンシング領域では、25年度に約4000億円の売り上げ(半導体事業全体では約1.3兆円)を目指す。モバイル、マシンビジョンを中心とする産業分野、車載の順に大きな売り上げが見込めると想定し、まずは物体との距離を測定できるToF(Time of Flight)センサーをモバイル用で立ち上げ、産業分野へ順次普及させていく。これにエッジAI処理を融合し、センサーの売り切りにとどまらないリカーリング(繰り返し収益が見込める)ビジネスモデルを追求する。

 ToFセンサーに関しては、15年に買収したベルギーのソフトキネティックシステムズ(現Sony Depthsensing Solutions)が保有するソフトウエアを性能の差別化に有効活用し、画素の微細化を進めつつ、顧客ニーズに応じて開発を進めていく考え。

 車載に関しては、ミリ波レーダーやLiDARのデータとカメラ映像を組み合わせたセンサー・フュージョンに取り組み、あらゆる環境下で自動車の安全性を高める技術開発を推進していく。一方で、「自動車業界でソニーの認知度は上がったが、(米On Semiconductorなどの)競合他社はかなり長く業界に入っており、そう簡単にシェアを逆転できないことも分かった」と述べ、プレゼンスをさらに高めることに注力する。

 ソニーのセンサーをデファクト・スタンダードに持っていくため、「現在はモービルアイ(単眼カメラの高度運転支援システムを提供するイスラエル企業)、エヌビディア(画像処理用半導体を啓発する米国企業)との連携が重要と思っている。信号のフュージョンはほとんどアルゴリズムで構成されており、ここにマイコンやSoC(System on Chip)などを付加すると後段処理がシンプルになる」と語り、将来はセンサーに限らず、ロジックを付加したECU(Electronic Control Unit)に近いかたちでの提供を視野に入れていることも明らかにした。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏