しかし、子育てをしている今はあの時のお母さんの気持ちがわかります。あの時のお母さんは、怒る気力がなく、子育てにおいて限界にきていたのではないかと。

子どもを「泣き止ませる」「怒る」「叱る」というのは、とてもエネルギーが必要です。しかし、何をどうやっても泣き止まない、いくら言っても言うことを聞いてくれないというのは決して珍しくありません。

何をしても状況がどうにもならない時、人は、心を無にすることで自分を保つことができます。そうしないと、最悪の場合手をあげてしまったりすべて投げ出したりしそうになるからです。

子どもをしっかり叱ってしつけをし、自分の言う通りに行動させる。そうするのが親の務めだという意見は確かに正論です。しかし、24時間365日の子育てはそんな正論が常にまかり通るものでもありません。

筆者が見たあの男の子は、いつもあの時のように駄々をこね、お母さんの言うことを一切聞かない盛りだったのでしょう。そして怒る気力を失ったお母さんは、「あーまたか」という思いで、ただただ男の子の駄々が終わるのを耐えて待っていたのだと、今になって理解できます。

もう少しだけ、あたたかい心で見守ってほしい

言うまでもなく、他人に迷惑をかけてはいけないことを、家でも外でも子どもに教えることは親の義務であり責任です。「最近の親はちゃんとしていない」という見方がされていることも、当事者としては理解しています。

ただ、怒っていない親の中には、子どもを甘やかせようとしているわけでも自分が楽をしようとしているわけでもなく、上記のような事情の場合もあります。子どもが泣いていたり言うことを聞かないでいたりする際に「ちゃんと親が怒れ!」と憤る前に、もう少しだけあたたかい心で子連れを見守ってもらえたらと思います。

秋山 悠紀