痴漢対策に「安全ピンで自衛」は是か非か?

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みなさんは実際に痴漢に遭遇したり、その現場を目撃したりしたことがありますか? たびたび議論が紛糾する痴漢問題。「助けを呼びにくい」といった被害者側の心理的障害や、特に満員電車での冤罪(えんざい)被害など、いまだ抜本的な解決策は見いだせていません。

そんな中で、ある「被害者側の自衛策」に対して、賛否両論が飛び交っているようなのです。

痴漢対策に安全ピン!?

話題の発端となったのは、あくび(@AkubiHarubiyori)さんによって、5月14日にTwitterに投下された学生時代の体験漫画です。当時中学生だった投稿者さんが痴漢被害に遭ってしまい、その学校の保健室の先生に相談したころ、「安全ピンで刺す」という自衛策を教えてもらった、といった内容でした。

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携帯も満足に普及していなかった当時、「恐怖で声も挙げられず、無抵抗にならざるを得ない女子生徒」ができる、痴漢のエスカレートを防ぐための自衛策として、先生が提案したのが「安全ピン」だったということです。

このツイートは8万RT(リツイート)、16万いいねを獲得するほど話題を呼び、さまざまな意見が寄せられました。賛否両論を呼んだこのお話には、いまだ明確な決着はついていません。

参考にする人、共感する人

あくびさんのこの投稿を受けて、

「安全ピンなら持ち歩いても不自然じゃない」
「痴漢です、って声をあげても助けてもらえなかった」

など、過去の体験も含めて、自衛策の候補として参考にしている方が見受けられました。また、

「昔あった布団用のぶっっとい安全ピンを持ち歩いてた」
「母校でも同様に教わった」

などのように、すでに実践していた、同様に教わった、という声も寄せられています。

逆に傷害罪に問われちゃう?

しかし、一方で、

「傷害事件になってしまうのでは?」
「冤罪で安全ピンで刺されたら、単に傷害罪では?勘違いして刺した女性側が訴訟沙汰に巻き込まれる可能性もある訳なのが何とも」

など、傷害罪の可能性を心配する声も寄せられています。それだけではなく、

「混雑した電車内で正しく犯人を刺せる自信が1ミリもないし、そもそも人を安全ピンで刺すのに忌避感がある」
「痴漢された側が痴漢を証明できず罪が重くなってしまう可能性があるのでは?」

など、痴漢被害に遭った側としてもハードルが高く、リスクも十分にあるという指摘もなされています。漫画の作者本人も、「あくまで携帯も十分に機能してなかった昔の教え」であることを、のちのツイートで強調しています。

被害経験者や女性からの鋭い指摘

しかし、この冤罪の可能性に対する反論として、

「ムム?この人痴漢かな??」みたいなテンションで安全ピン刺すわけねえだろ。パンツの中に手が侵入してきて「やべえよ!これやべえよ!」とか思いながら刺すんだよ」

といったように、本当に間違えようのない相手に対して安全ピンを使う、という主張が見受けられます。

また、これまでの「痴漢被害者に対する冷遇」への反発も込めて、次のような皮肉の声も寄せられています。

・今まで女性たちに「痴漢に遭ったくらいで大騒ぎするな。ちょっと触られたくらいで、減るもんじゃなし」的な姿勢だった男性たちが、当の女性たちに「痴漢は安全ピンで刺されるくらい、当然だ。ちょっと痛いくらいで、死ぬわけじゃなし」と返されて歯切れ悪くなってるのはなかなか趣深い
・「護身術習うとか」と女性に直接言ってきた男性およびそれを黙って見ていた男性が、安全ピンには慌てふためいて「そんなことしたら傷害罪だ」
・痴漢とかレイプの話をすると必ず「自衛が足りなかったのでは」とか「触られたくらいで大げさ」「満員電車に乗るな」「飲み会に行くな」とか散々言われてきたのに安全ピンの話になるとみんな怒り出すんだね。

この点に関しては、被害経験者の「恨みつらみ」も根深そうです。

警察に実際に問い合わせた人のコメント

では、この安全ピン自衛策、実際に傷害罪に問われる可能性はあるのでしょうか?

安全ピンに限らず、「特定の行為が、正当防衛になるか、あるいは過剰防衛にあたるか?」という視点で考えると、刑法第36条には、正当防衛に関して「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と書かれています。「急迫不正の侵害」をもう少し簡単にいえば「違法で、かつ差し迫った害や危険」といった意味です。

たとえば、「相手が抵抗しなくなってからも何十カ所も刺す」や「10分前にやられたことの報復で刺す」といったことは、明らかに過剰防衛となる可能性が高そうですが、そこまでではなくともリスクはつきまといます。実際、今回の件を踏まえて、警察の性犯罪相談室や生活安全係に問い合わせてみた、というHound(@Hound_7)さんのツイートによれば、

「自分が聞いた所全て『推奨しない』だった。理由はやはり傷害罪の可能性があるから」
「痴漢した犯人を刺してその後に犯人が痴漢として捕まっても、被害者は被害者であれ刺した事で傷害の罪が無いか調べる事になるらしい」

とのことでした。

じゃあ、どうすればいいの?

これらのことから考えても、「安全ピンで刺す」というのは最適な自衛策とは言いがたいようです。では、ほかにどのような自衛策が考えられるのでしょうか? 冒頭で紹介した投稿に寄せられた他の自衛策や自衛のヒントとして、

・警察署の方に「痴漢されたら加害者の手を思い切り引っ掻きなさい。皮膚片が残っていれば証拠として検挙できるから」と言われたことがあります
・娘が40代の男に延々と暴力的な言葉で罵られた時、最寄駅と鉄道警察の窓口と話をしましたが「SOSボタン、遠慮せず押して下さい。110番して下さい。電車が止まれば車掌始め、駅員、警察、動けます。」と

といった話が挙がっています。ほかにも

・シャーペンやボールペンを使う
・警視庁アプリの痴漢撃退ブザーを鳴らす
・スマホのインカメラで証拠を撮る
・スマホの機能で周りの人にこっそり知らせ、目撃者になってもらう

などが挙げられています(「シャーペンやボールペンを使う」は、大きく捉えると安全ピンとあまり変わらないようにも思われますが……)。

痴漢問題は、よく「男性vs女性」の対立構造になりがちです。しかし、本来、批判されるべき対象は、「痴漢をする人」と「冤罪をでっちあげる人」のはずです。「被害者」と「冤罪を防ぎたい人」は関係機関とも手を取り合って、痴漢問題への対策をより建設的に考えていくべきではないでしょうか。

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参考記事

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2005年創業。ビジネス書・実用書を中心とした書籍出版や企業出版、メディア・コンテンツ事業、デザイン制作事業などを手がける。

主な刊行書籍に、20万部突破の『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』をはじめ、『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』 『起業家のように企業で働く』 『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『自分を変える習慣力』 『鬼速PDCA』など。