5月12~17日に米サンフランシスコで開催されたディスプレーの国際学会「SID(the Society for Information Display)」では、次世代ディスプレー技術として期待されるミニ/マイクロLEDに関する発表が相次いだ。依然として、小さなLEDチップを画素として高密度に実装する量産技術の開発は途上だが、スマートグラスなどに搭載される小型ディスプレーは実用化に近づいたようだ。

英Plesseyが貼り合わせ駆動に成功

 LEDメーカーの英Plessey Semiconductorsは、協業している台湾ファブレスのJasper Display(JDC)と共同で、シリコンバックプレーンで駆動する単色のモノリシックマイクロLEDディスプレーを開発したと発表した。

 PlesseyのGaN on Silicon青色マイクロLEDと、JDCのシリコンバックプレーン「eSP70」を、ウエハーレベルボンディングで貼り合わせた。両社は2018年9月に協業を発表し、Plesseyは同年11月にEVグループ(EVG)からウエハー接合装置「GEMINI」を購入することを明らかにして英プリマス工場に導入し、19年4月に接合に成功した。

 開発したマイクロLEDディスプレーは、画素ピッチ8μmで1920×1080のFHD解像度を有する。マイクロLEDとバックプレーンは200万以上の接合を要し、JDCのバックプレーンは10ビットで単色セルを制御する。

 Plesseyのエピタキシー&先端製品開発部長であるWei Sin Tan博士は「当社のモノリシックマイクロLEDディスプレー技術の開発で重大なマイルストーンだ。私たちの知る限り、シリコンバックプレーンを接合してマイクロLEDを駆動させたのは世界初のことだ」と述べた。

スマートグラス向けに長期供給契約

 さらにPlesseyは、スマートグラスメーカーの米Vuzixと専用ディスプレーの長期供給契約を結んだと発表した。PlesseyのマイクロLED光源とVuzixの光学技術を組み合わせ、AR(拡張現実)スマートグラスの開発・製造をサポートする。

 両社は18年8月に開発提携を結び、DMD(Digital Mirror Device)やLCOS(Liquid Crystal on Silicon)ディスプレーの照明用にPlesseyのマイクロLED光源「Quanta-Brite」を採用する方針を明らかにしていた。Quanta-Briteは、GaN on Siliconによるモノリシックアレイをベースにした光学エンジンで、他の光源に比べて高い効率とルーメン出力を実現でき、現行の光学システムより50%小型で、軽く安価にできるという。

 今回の契約に際し、Vuzix社長兼CEOのPaul Travers氏は「PlesseyのマイクロLED技術は、当社の次世代スマートグラスの形状と機能性に必要なキーパーツであり、世界が求めるファッション性へのソリューションとしても重要だ」と述べた。Vuzixには半導体大手の米Intelが出資している。

カナダのVueRealがサンプル出荷開始へ

 カナダのマイクロLEDベンチャーであるVueRealは、3万ppi(Pixels per inch)以上のマイクロLEDディスプレーの開発に成功したと発表した。生産性を高めることに成功し、6月までにサンプルの受注受付を開始するという。

 同社は、独自のマイクロプリンティング装置を活用して自己整合型のLED実装技術を開発し、17年に自身で記録した6600ppi以上を上回る解像度を実現した。この製造プロセスにはセルフアライメント技術、スマートマイクロデバイスカートリッジ構造などが含まれる。これに伴い、例えば1000ニット程度に輝度を制限したり、2500ppi程度に解像度を下げたマイクロLEDを提供することができるという。

 CFOのDave Miller氏は「当社は開発・量産に向けて先端ナノテクノロジーセンターに投資しており、製品サンプルを関係者に提供する準備を進めている。最初に、重要なビジネスチャンスを持つ選択された団体にサンプルを提供する」と述べた。

 VueRealはカナダの政府機関「カナダ持続可能開発テクノロジー(Sustainable Development Technology Canada)」から850万ドルの資金支援を受け、この資金でマイクロLED技術の開発チームを強化しつつ、製造拠点となる先端ナノテクノロジーセンターの立ち上げを進めている。また、カナダのCVD&PVD装置メーカーAngstrom Engineeringや、半導体製造装置大手の米Veeco Instrumentsと共同開発も推進中だ。

天馬が初のマイクロLED展示

 中国の中小型ディスプレーメーカーである天馬微電子は、7.56インチのマイクロLEDディスプレーを開発した。720×480(114ppi)画素を有し、60%を超える透過率を実現した。額縁が0.8mm未満と狭く、有機ELに比べて長寿命かつ安定性が高いため、自動車用のヘッドアップディスプレーや窓用アプリケーションに最適と想定している。

液晶大手はミニLEDをバックライトに採用

 一方、ミニLEDは、ハイエンド液晶パネルのバックライトへの採用事例が展示された。

 台湾FPD大手のAUOは、ミニLEDバックライトの適用を2.9~32インチにまで拡大した。ゲームやVR(仮想現実)、プロ用モニターなどに供給する。ミニLEDバックライトの採用で、32インチの4Kディスプレーは最大1152のローカルディミング(部分的にバックライトを点灯・消灯させる技術)ゾーンを備えたほか、17.3インチのゲーム用ノートパソコンLTPS液晶パネルは240ゾーンのローカルディミングと1000ニットを超えるピーク輝度を実現した。AUOは18年10~12月期からミニLEDバックライト搭載製品を出荷しており、順次ラインアップを拡大している。

 中国FPD最大手のBOEは、ミニLEDバックライトをHDRノートパソコン用やV字型に湾曲した車載用の液晶ディスプレーに適用した。BOEは19年1月、LEDベンチャーの米Rohinniと薄膜マイクロ/ミニLEDを用いた液晶バックライトを手がける合弁会社を設立すると発表しており、合弁会社で主に32インチ以上の大型民生用と産業・車載用などの液晶ディスプレーを対象に事業を展開することにしている。

ソニー、サムスンのマイクロLEDが受賞

 このほか、SIDが主催・選考する「Display of the Year」には、アップルのApple Watch Series 4用「LTPO有機ELディスプレー」とともに、韓国サムスンのモジュラーマイクロLEDディスプレー「The Wall」と、ソニーの超大型マイクロLEDディスプレー「Crystal LED Display System」が選ばれた。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏