時価総額7兆米ドル(約780兆円)の中国A株市場が高騰している。中国本土市場に上場する企業300社によって構成される株価指数「CSI300指数」は、2019年初から28%強上昇し、昨年の損失の多くを取り戻した(2019年3月29日時点)。

2019年1-3月期の中国A株の上昇は、いろいろな意味で「既視感」を感じさせる。2006-2007年と2014-2015年の2回の強気相場を思い起こせば、当時株価は勢いよく上昇した後で、「中国の経済成長率が鈍化する」という懸念や当局の金融引き締めを背景に市場参加者のリスク選好姿勢が後退し、相場は下落に転じた。

だが今回の株価上昇では市場は強気の度合いを強めている。2018年は悲観論が台頭したが、2019年に入り、米中貿易摩擦が解決に向かうとの期待感の高まり、中国首脳部が政策の軸足を「信用引き締め」から景気を下支えする「経済成長重視」に切り替えているからだ。

当社は、最近の株価上昇の背景には、上述の市場センチメントの回復以上の要因があると考えている。MSCIが公表する株価指数の中で中国A株の比率が引き上げられるという構造的な変化が、相場の押上げ材料となっているのである。

MSCIは、同社が株価指数を算出する際、これまで中国A株の対象銘柄については時価総額の5%のみを算入していたが、これを段階的に20%にまで引き上げることを決定した。

これは、国内資本市場の開放に向けた中国政府の取組みが評価されたものだ。この算入比率の引き上げによりMSCI指数内での中国A株式のウェイトは上昇するが、これを受け、年内に約730億米ドル(約8兆1,000億円)の投資資金が中国A株市場に流入し、株価を一段と押し上げると見込まれる。

MSCIが2月に本件を発表して以来、一部のA株銘柄は外国人株主の持株の上限である30%に近づいており、海外投資家からの買い注文を受けられなくなっている。当社はこうした株価指数内でのA株ウェイトの引上げは、単なる資本流入以上に中国の資本市場の発展に大きな影響をもたらし、長期的には中国市場の透明性と中国企業のコーポレート・ガバナンスの改善につながると考える。

中国当局は民間企業の資金の借入コストを引き下げるという方針を打ち出しており、これは2019年下期以降、株式市場の構造的な側面からの支援となるであろう。企業業績のさらなる改善やバランスシートの強化がもたらされる可能性が高まるのである。3月に開かれた全国人民代表大会(全人代)で、李克強首相は、さまざまな金融緩和策に加えて、2019年に2兆人民元に上る追加減税と手数料の引下げを発表した(大半は法人税減税)。

李首相はまた経済に対する逆風を意識して、「十分で潤沢な流動性」を確保するための追加策の必要性を強調し、これまでの政府のデレバレッジ(各経済主体の負債削減)の方針を棚上げすることを正式に表明した。こうした政策はすべて中国株式市場に良い兆候である。

相場急騰にも関わらずA株のバリュエーションは依然市場の支援材料だということも見逃せない。CSI300指数の株価収益率(PER)は依然割安であり、予想利益の約11.9倍は10年間の平均を下回る(図表1参照)。

心配の種?

激しい価格変動で悪名高い中国A株市場は、未だに個人投資家が中心であり、日中取引高の80%以上を占める。ここ数週間、当社は個人投資家のセンチメントを測る信用取引の増加に注目している。だが同時に、モメンタム(市場の趨勢)やテーマ株を追いかける個人投資家にとり、利益の質といったファンダメンタルズ要因はさほど関心事ではないようだ。

たとえば今年に入りA株市場で最も騰落率が高い30銘柄は、全体で176%上昇している(3月22日時点)。その半数の銘柄は2019年に利益成長の鈍化が見込まれるにもかかわらず、である(これら30社のうち利益成長が予想されるのは8社で、7社はアナリストが予想を出していない)。

中国国務省管轄下にある中国証券金融股份有限公司によると、信用取引残高は2月初めの7,100億人民元から3月22日には9,000億人民元へと増加した。中国の証券監督当局は個人投資家によるレバレッジの状況を注意深く見守っている。信用取引が一定の水準を超えると当局は一段の投機的な動きを抑えるために、政策介入を行うだろうと当社は考えている。