相次ぐ芸能人の不祥事、でも作品の「お蔵入り」って本当に必要?

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2019年2月に強制性交の疑いで逮捕された新井浩文容疑者に続き、3月12日、ミュージシャンで俳優のピエール瀧容疑者が麻薬取締法違反容疑で逮捕され、図らずも人気芸能人の逮捕が相次いでいます。

また、彼らの事件を受けて、テレビ各局や映画会社、所属事務所らが、過去の出演作品や公開予定作品を自粛する流れとなっています。しかし、その「自主規制ムード」に対して、各所で疑問視する声が上がっています。瀧容疑者の逮捕から1週間が経ちましたが、ここまでの動きとあわせ、海外ではこうした場合に「自粛」をしているのかどうかなども含めて、簡単にまとめてみます。

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ピエール瀧容疑者の関係作品の行方

瀧容疑者はこれまで数々の映画やドラマ作品に出演し、また石野卓球さんとのユニット「電気グルーヴ」で精力的に音楽活動も行ってきたため、多くの作品に影響が及んでいます。

各メディアの報道によれば、NHKオンデマンドで配信していた『あまちゃん』『龍馬伝』『とと姉ちゃん』などは当面配信停止、大ヒット作の続編であるアニメーション映画『アナと雪の女王2』は、日本語吹き替え版の声優に瀧容疑者を起用して公開予定でしたが、他の声優への交代を行うとのことです。

また「電気グルーヴ」が所属するソニーミュージックレーベルズは、音楽作品のデジタル配信の停止と映像作品の回収を発表しています。

「自粛」を疑問視する声

こういった配信停止や公開中止の流れに対しては、一般人からだけでなく、メディアでも批判が相次いでいますが、業界関係者も数多く疑問の声を挙げています。たとえば、映画監督の鶴田法男さんは、Twitter上で次のように述べています。

「(前半省略)過去作まで封印するようになるのは過剰反応だと思う。役者は別人格を演じているわけです。それに、役者の皆さんには申し訳ないけど、役者は作品の一部分を形作っているだけに過ぎない」

また、劇作家の鴻上尚史さんは、「文化的損失」という観点から、過去作品の封印について以下のように疑問視しています。

「出演者の不祥事によって、過去作品が封印されるなんて風習は誰の得にもならないし、法律的にもなんの問題もないし、ただの思考停止でしかない。ここで制作者は踏ん張って、作品と1人の俳優はイコールではないと持ちこたえないと、この国の文化は悲惨なことになってしまう」

音楽の分野でも、坂本龍一さんがTwitter上で、

「なんのための自粛ですか?電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいんだけなんだから。音楽に罪はない」

と表明。同様の視点で、弁護士の福井建策さんも、Twitter上で次のように述べています。

「「あまちゃん」もか・・・。新井浩文の時にも言ったが、果たして個人の問題で過去の出演作を次々停止する必要はあるだろうか。配慮はわかるが、一度公開された作品は社会の共有資産でもある」

実際、前出の鴻上さんが指摘したように、法律上では「容疑者や犯罪が確定した人間の出演作品は公開停止にしなければならない」という定めはなく、公開停止はメディア側の「慣行」でしかありません。

公開・配信中止の背景

新井浩文容疑者の場合は、性犯罪ということもあり、被害者のPTSDやフラッシュバックなど二次被害を少しでも防ぐという「被害者のケア」という観点では、公開中止や過去作品の配信停止は納得できる部分もあります。

しかし、薬物による不祥事の場合、「明確な被害者」というのは存在しません。それでも公開中止となるのには、一体どういった背景があるのでしょうか?

「シネマトゥディ」の報道によれば、公開中止・延期の決定には、おおよそ「製作委員会」が大きく関わってくるようです。通常、製作委員会は、映画を製作した制作会社だけでなく、資金や人材などを提供した広告代理店・テレビ局・芸能事務所・興行会社なども含めて成り立っています。

ここでの判断には、出資したテレビ局や共演者のイメージダウン、劇場側の判断等が関係しており、製作委員会での満場一致でなければ映画の公開は難しいようです。また、特に昨今はSNS上での「ネガティブな意見」を重視する傾向も影響していると同記事中では述べられています。

また、コンテンツ産業を専門分野としている国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)客員研究員の境真良さんは、「弁護士ドットコム」の取材に対して、「脇役としての出演でも公開停止になる要因として『作品に付随する広告主への配慮』も原因のひとつとして考えられる」と答えています。

海外では「自粛」は行われている?

芸能人の不祥事というのは、日本に限った話ではありませんが、海外ではどういった対応が取られているのでしょうか?

アメリカのミュージシャン、ブルーノ・マーズもピエール瀧容疑者と同様にコカインの所持で逮捕されましたが、逮捕直後にリリースされたシングル曲は全米チャート1位を記録し、その後も輝かしいスター活動を続けています。また、カナダのミュージシャンであるジャスティン・ビーバーは、飲酒運転や器物破損などにより三度の逮捕歴がありますが、その後もグラミー賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を遂げています。

一方、公開予定作品を中止するというのは、海外でもある事例のようです。日本でピエール瀧容疑者の逮捕騒動があったのと同時期に、アメリカでは大規模な裏口入学のニュースが世間を騒がせていました。

このスキャンダルには、米国の人気女優ロリ・ロックリンも含まれていました。全米でケーブルテレビのネットワークや制作会社を傘下に持つCrown Mediaでは、彼女が出演していた、2019年公開予定だったTV映画や、その他すべての放送中のチャンネルの作品の制作を止めているようです。

しかし一方で、彼女はかつての人気ドラマ『フルハウス』のスピンオフシリーズであるNetflixの番組『フラーハウス』で主要キャストの一人でしたが、『フラーハウス』の過去作品はまだNetflixで閲覧できるようです。

観る側・作る側の両方にとっての「損失」

映画やドラマ、音楽作品の公開停止・過去作品の配信停止は、観る側にとっても、製作側にとっても、大きな痛手といえるでしょう。

一般的に一つの作品を作り上げるには、当時者だけでなく、共演者やスタッフ、その他の関係者など、さまざまな人が関わり、莫大な資金や時間をかけて作られており、不祥事による「封印」は、それらすべての人たちの努力が無駄になってしまいます。

また、視聴者側にとっても、素晴らしい作品が見られなくなる、というのは大きな文化的損失でもあります。

もちろん「不祥事がない」というのが一番望ましいのですが、人間である以上、誰もが罪を犯す可能性を持っています。過剰ともいえる現状のような自主規制のムードがなくなることは、結果的にも多くの人たちの仕事や思いを守ることになるのではないでしょうか。

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参考記事

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2005年創業。ビジネス書・実用書を中心とした書籍出版や企業出版、メディア・コンテンツ事業、デザイン制作事業などを手がける。

主な刊行書籍に、20万部突破の『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』をはじめ、『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』 『起業家のように企業で働く』 『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『自分を変える習慣力』 『鬼速PDCA』など。