新年度を目前に控えて、4月から新社会人となる人たち、あるいはそれを受け入れる会社の側でも、期待と不安が入り混じった気持ちになっている人は多いのではないでしょうか。

 20代半ばで起業し、33歳で年商50億円の事業に育て上げた横濱コーポレーション代表の菅沼勇基さんは、自身の20代の働き方も振り返りながら「人生の大半を費やす仕事の時間がつまらないと、人生もつらく、苦しくなってしまう」と話します。菅沼さんの著書『社会人1年目の教科書』をもとに、人生の中で「仕事」をどう位置づければいいのかを解説してもらいました。

周囲の誰かと競っても意味ないのが社会人

 社会人になると、それまでの人生とはガラッと様子が変わります。

 学生時代までは、ある程度、他人が引いてくれたレールの上をひたすら走るだけでも構わない人生だったかもしれません。しかし、社会人になったら「誰かが引いてくれたレール」はありません。自分でゴールを設定し、それに向かって自分でレールを引きながら進んでいく必要があります。

 大学受験なら、周りの誰かに勝つとか、誰かよりも「いい大学」に行くというのはモチベーションになり得たでしょう。しかし、社会人になったら、本質的には周囲の誰かと競っても仕方がありません。その相手は、あなたとは別の価値観で、別のゴールを定めているからです。たとえば、「将棋」のプロ棋士なのに、「オセロ」の世界王者に「チェス」で戦って勝っても、あまり意味を成さないのではないでしょうか。

なぜ転職市場で「1社目」が重要視されるのか

 断言しますが、社会人になった最初の1年間の頑張りいかんによって、人生はまったく違ったものになります。「ここで間違ってしまうと、もう二度と人生は戻らない」「この1年が一生を決める」と言っていいほど、この1年は重要です。この1年を活かすも殺すも、自分次第です。

 どんな仕事でもそうだと思いますが、1年目に教えられた仕事のやり方、取引先や上司との付き合い方は、ずっと覚えているものです。職種が変わっても、結局、同じような仕事のやり方をしていたりするものです。真っ白なキャンバスの上に描いた下地は、その上からどんな絵を書いても、影響が出てきます。いつまでも残って、終生あなたに影響を与えるのです。

 転職を斡旋(あっせん)するプロフェッショナルの転職コーディネーターの話では、転職市場では、「1社目でどんな会社に勤めたか」を非常に重視するといいます。何社か転職経験のある人でもそうだというのです。1社目でなぜその会社を選んだのか、どういう会社にどれくらいの期間勤めていて、どんなことを教えてもらったのかが重要だといいます。
それくらい1年目が大切だということなのです。

天才でも金持ちでも1日は30時間にはならない

 では、仕事というものは、人生の中でどのように位置づけたらいいのでしょうか。実は、これによってあなたの一生が決まると思っても過言ではありません。なぜなら、人生の多くの時間は、仕事に費やすことになるからです。

 時間はすべての人に平等で、1年は365日、1日は24時間です。どんなにお金を持っていても、どんなに才能あふれる人でも、1年が400日になったり、1日が30時間になったりはしません。

 その中で、労働基準法に基づいて普通に労働するとなると、1日8時間、週40時間が上限です。たとえば、午前9時から午後6時まで働くとすれば、途中、昼休みなどがあって9時間は拘束されます。それに通勤が加わります。たとえばドア・トゥ・ドアで1時間、往復で2時間とすると、仕事のために11時間を費やすことになります。

仕事に使っている時間はどれだけ?

 9時からの始業で8時59分に来る人はいませんから、8時半前後には出社するでしょう。午後6時に終わっても、帰るための準備などをしていると、なんだかんだで30分ぐらいはすぐに経ちます。すると、合計12時間ぐらいは仕事のために使うことになるのです。

 ましてや睡眠時間が6時間だとすると、起きている18時間のうち12時間は仕事のために使っているので、平日は「起きている時間の実に3分の2が仕事」という状態です。プライベートの時間は6時間しかありません。週休が2日だとして、土日は起きている18時間×2の36時間がプライベートになります。

 1週間単位で見ると、全部で168時間のうち、起きている時間は18時間×7で126時間。このうち12時間×5=60時間を仕事のために使い、平日の6時間×5=30時間と休日の36時間で計66時間をプライベートに使っていることになります。

結局、起きている時間の大半は仕事

 こう考えると、眠っている以外のほぼ半分の時間は、仕事のために使っていることになります。本当は睡眠を7時間ぐらい取ったほうがいいので、それぐらい眠ると、もう仕事に使う時間のほうが多くなってしまいます。

 仕事に苦痛を感じながら過ごしていると、仕事の時間が長いだけに、「人生そのもの」が苦痛に感じられるようになってきます。そんなのはバカバカしいと思いませんか?

 仕事いかんで人生の充実度・幸福感が決まります。仕事がおもしろくなかったら、何のためにあなたが「人生の半分」も費やしているのか、わからなくなります。

 ですから、「仕事=苦痛」という考え方を転換する必要があるのです。

「守りの仕事」が多い時代

 いまの時代は、かつての高度経済成長期のように、新しいものをどんどん生み出し、海外にも打って出て、ガンガン稼いでいくという成長軌道が描きにくい時代ではあります。

 そのため、どちらかというと、そうした「攻めの姿勢」よりも、どうやってコストカットし、コンプライアンスを守りながら、売上を維持していきつつ利益を絞り出していくかという「守りの姿勢」が強くなっています。

 そうなると、「自分がした仕事で、会社の利益が上がって儲かり、自分の給料もどんどん上がっていく」という姿は描きにくくなっていきます。「守りの仕事」というのは、どうしてもつまらないと感じてしまいがちです。

筆者の菅沼氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

本当に大事にしなければいけないのは?

 私は、本来のワーク・ライフ・バランスとは、単なる「働く時間の割り振り」の話ではないと考えているのですが、勘違いしている人は多いようです。

 仕事時間とプライベートな時間のバランスを取らなければいけないと感じる人は、仕事がおもしろくないと感じている人に違いありません。なぜなら、仕事がおもしろく、充実していると感じることができていれば、仕事自体がライフの一部になるだけであり、そもそもバランスを取る必要が薄くなってくるからです。

 楽しんで仕事ができていれば、人生の多くの時間を仕事に費やしていたとしても、人生そのもののバランスは取れているわけです。本当に大事にしなければいけないのは、実は「時間」のバランスではなく、「心」のバランスなのです。

 

■ 菅沼勇基(すがぬま・ゆうき)
 横濱コーポレーション株式会社 代表取締役。1985年、横浜市生まれ。横浜市立大学国際総合科学部卒業後、住友不動産(株)に入社し、オフィスビルの開発・運営業務、新事業の開発業務に携わる。3年後に独立し、収益用不動産の売買・仲介・賃貸管理を手がける横濱コーポレーション(株)を設立。33歳で年商50億円のビジネスに育て上げたほか、医療法人の理事も務める。

菅沼氏の著書:
社会人1年目の教科書

菅沼 勇基